研究課題/領域番号 |
22J11022
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平井 遼 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 航空宇宙工学 / ロケットエンジン / 流体数値計算 / 圧縮性流体 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、ロケットエンジンノズルの構造的損傷をもたらす恐れのある衝撃波自励振動現象について、ノズル内流れ場を数値計算により再現することで衝撃波振動発生のメカニズムやその制御手法を明らかにすることである。衝撃波振動によるロケットエンジンへの構造的負荷は特に打ち上げ直後の低高度域にて生じることが考えられ、本課題で得られた研究業績はロケット打ち上げ時の故障リスクを事前予測する、あるいは軽減することに寄与する重要なものである。令和4年度においては、ノズル内壁における乱流境界層の壁面近傍をモデル化する流体数値計算手法を用いて、過膨張条件下におけるノズル内の衝撃波自励振動現象を再現することに成功した。壁面近傍の流体流れをモデル化することにより、従来の数値計算に比べて大幅に計算コストを低減することを達成している。過去の実験結果と比較しても定性的に良い一致が得られており、実現象に則した高忠実な物理が本課題の数値計算によって再現されていると考えられる。さらに、実際のロケットエンジンノズルに備わっている壁面冷却システムが衝撃波振動現象に及ぼす影響についても検証を行った。これは世界的にみても先駆的な検証であり、実機ロケットエンジンにおける衝撃波振動をより正確に数値予測する、あるいは壁面冷却を衝撃波振動制御の手段として検討するうえで重要な意義を持つものである。研究結果は壁面冷却によって衝撃波振動範囲がノズル出口側に遷移することを示唆しており、その要因として壁面冷却による境界層剥離抑制効果が考えられる。壁面冷却による境界層剥離抑制効果はノズル内流れの事前検証として行われた平板流れにおいて確認されており、この解析結果を基にノズル内流れへの影響を今後さらに詳細に明らかにしていくことができると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では令和4年度において、過膨張ロケットエンジンノズルの計算に使用する流体数値モデルの性能評価を行い、さらにノズル計算のセットアップを完了させ計算を開始するところまで進捗を達成している。流体数値モデルの性能評価は、ロケットエンジンノズルという複雑な系で得られる計算結果の妥当性検証および物理現象解析を行うために必要な研究段階である。令和4年度の前半にかけてノズルよりも単純な平板流れを用いて評価を行い、得られた研究成果は7月の国際会議および12月の国内会議で口頭発表を行った。さらに3月には国際学術誌に論文投稿も行っており、流体数値モデルの評価に関する研究成果は概ねまとまっている状況である。研究結果は過膨張ノズル内で発生する衝撃波・乱流境界層干渉の物理を流体数値モデルが定量的に正しく予測できることを示しており、その結果を基に令和4年度の後半からは過膨張ロケットエンジンノズルの計算に着手した。エンジンノズル周りの計算格子作成や計算用プログラムの編集などの準備を8月頃から開始し、11月頃から実際に計算を開始させた。より信頼性のある数値計算を行うためには計算結果に基づいて計算格子や計算条件をさらに修正する必要があるため、令和4年度の段階では暫定的な計算結果を得るにとどまったが、既に衝撃波自励振動現象を再現することに成功しており非常に良い進捗が得られている。この計算結果をもとに計算格子をアップデートして再度数値計算を行う準備を整えたところで令和4年度の研究は終えており、令和5年度からは本格的にエンジンノズル計算およびその解析に着手することができると想定している。以上より、事前に立てた2年間の研究計画に沿った順調な研究進捗が得られていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究目的として、1つ目はノズル内の衝撃波自励振動の発生および持続メカニズムを解明することが挙げられる。これを達成するために、令和5年度においては完全断熱壁条件の過膨張ノズル計算を実施し衝撃波振動の時系列データを取得する。そして、乱流境界層剥離の発達により時間的に変化するノズル出口の有効断面積と衝撃波位置の相互関係に着目し解析を行うことを検討している。この解析にはノズル内流れ場の物理量分布を時系列的に大量に取得する必要があり、流体数値モデルを使用することで長時間の数値計算を現実的な計算コストで行えるようになった本課題だからこそ実施できる調査方法である。これにより、密接に関わり合っていると思われる衝撃波振動と乱流境界層剥離の物理を詳細に明らかにする。さらに、2つ目の研究目的として、ノズル壁面を加熱・冷却することによる衝撃波自励振動への影響を調査することが挙げられる。これは実際のロケットエンジンノズルに備わっている再生冷却機構が衝撃波振動現象に与える影響を評価するとともに、壁面冷却を介した衝撃波振動の制御手法を検討するために行われる。そのために、加熱・冷却壁条件の過膨張ノズル計算を実施し、完全断熱壁条件のケースと同様に時系列データを取得する。令和4年度までの検証により、壁面の加熱・冷却が衝撃波によって生じる乱流境界層剥離を促進・抑制する効果を持つことが既にわかっており、衝撃波振動現象のメカニズムを解析するうえで衝撃波振動と乱流境界層剥離の関係性を明らかにすれば、その研究結果を基に壁面加熱・冷却による衝撃波振動への影響も論理的に説明可能であると考える。以上のように、ロケットエンジンノズル内で発生する衝撃波振動のメカニズムと壁面冷却による制御について、双方の研究結果を得るとともに両者を論理的に紐付けていくことが本課題の今後の研究方針である。
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