本研究課題は、ロケットエンジンノズルを振動させ構造的な破壊を招く恐れのあるノズル内衝撃波自励振動現象について、壁面の冷却や衝撃波による乱流境界層への干渉効果を正しく再現することのできる数値計算モデルを活用することで、衝撃波振動を数値計算で忠実に再現し、かつその物理メカニズムを解き明かすことを目的として行われた。初年度は衝撃波によって生じる境界層剥離などの複雑流体物理現象に対する数値計算モデルの妥当性検証が行われ、境界層剥離サイズや壁面圧力振動スペクトルなどを忠実に再現できることが確認された。さらにオリジナルのモデルから一部パラメータを修正することにより壁面の加熱及び冷却の影響についても適切に再現可能となることが明らかとなり、ロケットエンジンノズル内の流れ場を計算するにあたり非常に有効な数値計算手法を確立することができた。この成果を受けて最終年度においては、簡素化したロケットエンジンノズルの数値計算を過膨張条件下で実施し、衝撃波の自励振動現象を再現することに成功した。この数値計算は実験と同程度のレイノルズ数で実施され、計算で得られた衝撃波振動周波数のピークは実験で観測されたものと一致している。さらに、これまで詳細に知られていなかった壁面冷却による効果も本研究課題で明らかにされ、壁面冷却により乱流境界層の剥離が縮小した結果、衝撃波振動が抑制されるという知見が得られた。壁面温度を変えたこれらの数値計算結果は境界層剥離と衝撃波振動の密接な関係性を示しており、衝撃波振動の物理メカニズムについて、境界層剥離が発達してノズルの有効出口面積が変化することでノズル内の圧力バランスが変わり、衝撃波が駆動されているという示唆が得られた。
|