本年度は、SUS304Lステンレス鋼の粉末と純Moの粉末を混合・焼結し、Mo濃化領域を含有するステンレス鋼を作製した。「インヒビターを内包した構造を有するステンレス鋼」の開発と耐食性の評価に取り組んだ。SUS304Lステンレス鋼の粉末と純Moの粉末を混合したものを放電プラズマ焼結法を用いて焼結を行った。焼結鋼に対して適切な熱処理を施し、Moをインヒビターとして内包した、コアシェル組織を有するステンレス鋼を作製した。コアシェル組織のうちコアは優先的に溶解し、Moイオンを供給し、その一方で、シェルは耐溶解性が高く、コアシェル構造が孔食発生の起点になることを防ぐ役割があることが分かった。このコアシェル組織を有するステンレス鋼は、Moイオンのインヒビター作用により、高い耐食性を示すことも明らかになった。実環境を模擬した、長期のサイクル試験では、比較材であるSUS316L焼結鋼と同等の耐孔食性を示すことが分かった。また、試験後でもコアが溶け切らなかったことより、コアシェルは比較的長期間、高い耐食性を保持できることを見出した。 さらに、焼結鋼の活用の観点から、焼結鋼の孔食起点の調査と高耐食化にも取り組んだ。SUS316Lを用いた孔食起点の調査の結果、焼結鋼の孔食は、MnSなどの硫化物系介在物と、気孔(未焼結部)が隣接するときに発生することが明らかになった。そのため、表面改質を行いMnSを除去することで、気孔が残っている状態でも高耐食化が可能となることを見出した。
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