時間反転対称性・空間反転対称性のどちらも破れた系では、非相反抵抗と呼ばれるオームの法則を破る新現象が生じる。これは電気抵抗が電流方向の反転に対して非等価となる現象で、これまで主に空間反転対称性を破る結晶構造を持つ物質に外部磁場を印加して生じる非相反抵抗が報告されていた。非相反抵抗の微視的起源は時間・空間反転対称性の破れに起因した非対称なバンド構造であり、フェルミ準位における正負の群速度が非等価となることで非相反抵抗が生じることが分かっている。一方、非相反抵抗を増強する機構や外部磁場印加無しでも非相反抵抗が生じるのかは未解明であった。 これらの問題を解決するために、ジグザグ構造を有する反強磁性金属の非相反抵抗の測定を行った。ジグザグ構造や蜂の巣構造は空間反転対称性を保つが反転中心が原子上に無いため、スピンが反強磁性的に秩序することで、時間・空間反転対称性を同時に破ることが知られている。従って、反強磁性転移温度以下でゼロ磁場非相反抵抗の発現が期待される。初年度の実験により、ジグザグ反強磁性金属NdRu2Al10が転移温度以下でゼロ磁場にもかかわらず、非相反抵抗を生じさせることを明らかにした。最終年度は、同様の結晶構造を持つ物質においても測定を行い、ゼロ磁場非相反抵抗の観測に成功した。加えて、非相反抵抗の強度をこれまで報告されていた物質と比較し、NdRu2Al10が大きな非相反増強効果を示すことを見出した。これはc-f交換相互作用を通して大きな有効磁場を伝導電子が感じることで、ゼロ磁場にも関わらず増強効果が生じていると考えられる。 得られた結果をまとめ国内学会・国際学会などで発表を行った。その結果、2件のポスター賞を受賞した。
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