研究課題/領域番号 |
22J13149
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小岩 広平 東北大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 「空気を読む」 / いじめ / 集団規範 / 攻撃行動 / 認知 / 集団構造 / 日本文化 / 相互依存的自己観 |
研究実績の概要 |
本研究では、「『空気』を読めない他者への攻撃エスカレーションモデル」の提案と検証を目的としていた。本研究の研究計画には、(1)モデルの提案、(2)モデルの実証の2つが含まれるものであった。これに対して本年度では、(1)モデルの提案についての論文投稿を、(2)モデルの実証についての調査と学会発表を行った。 まず、(1)モデルの提案については、論文の執筆を中心に研究活動を行った。まず、「空気を読めない他者」への行動を測定できる心理学尺度の作成を行った研究について、国際学会誌(International Journal of Brief Therapy)に投稿を行い、論文が受理された。また、モデルに含まれる変数の決定のため、文献的検討を行った。集団規範の研究やいじめ研究の中で論じられる「空気」について、理論的な考察を行い、レビュー論文として学内年報に投稿を行った(東北大学大学院教育学研究科年報)。さらに、「空気を読めない他者」の過激化要因として、いじめの加害者がもつ認知に焦点を当てた研究を行い、学内紀要に投稿を行った(東北大学大学院教育学研究科心理支援センター紀要)。 (2)モデルの実証について、一つ目の調査では、「空気を読めない他者」への攻撃行動とその過激化要因の関連モデルを検証した。「空気を読めない他者」と関わった経験をもつ若年層981名に対するインターネット調査を実施し、①集団、②認知、③攻撃行動の3側面を調査した。その結果、空気を読めない他者に対する攻撃行動の過激化が、どのような集団において、どのような認知にもとづき生じるのかが明らかになった。2つ目の調査では、モデルの普遍性の検証のため、アメリカ人と日本人に同様の調査を実施した。日本の大学生278名、アメリカの大学生277名にインターネット調査を実施した。その結果、モデルの普遍性と日本文化の影響があることが考察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、「『空気』を読めない他者への攻撃エスカレーションモデル」の提案と検証を目指して行われた。今年度の研究によって、当初の目的は概ね達成され、本モデルの検証が行われた。研究の結果、空気を読めない他者に対する攻撃行動の過激化が、どのような集団において、どのような認知にもとづき生じるのかが明らかになった。具体的には、①「空気を読めない他者」への攻撃行動には、「いじり・からかい」「叱責」「擁護」「放置」「回避」「陰口」の6つがあること。②これらの攻撃行動は、「拘束型攻撃」と「排除型攻撃」に類型化され、前者は制裁・報復的な意図により、後者は集団の変化を望む意図により、動機付けられていること、③「拘束型攻撃」は、友人集団全体による繰り返しの攻撃行動や暴力行為へとエスカレートする可能性があること、④構成人数が少なく、凝集性が高い友人集団の中では、集団の閉鎖性が高まることにより、攻撃行動が過激化する傾向にあることの4つの結果が示された。これらの結果について、共分散構造分析によりモデルの適合性を検証した結果、モデルは問題なく適合し、理論的にも統計的にも適切なモデルとして判断された。 しかし、この研究により新たな課題が明らかになった。それは、本モデルに対する介入が難しいことである。具体的には、教師や第三者がどのように振る舞うことで、モデルに描かれるプロセスを変更することができるのか、という問題が残されている。そのため、今後の研究では、これら新たな課題に対する検証が必要となります。特に、第三者の介入によって、攻撃エスカレーションモデルの動きをどの程度変えることができるのか、その可能性を探ることが重要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究計画は、大きく分けて3つの目標を設定している。 まず、初めに行うのは既存研究の論文化である。これまでの1年間の調査と分析結果については、1.「空気を読めない他者」への攻撃行動を類型化し、その認知的側面を解明した研究、2.攻撃行動の発生・エスカレート過程をモデルにした研究、3.モデルの日米比較の研究の3つが含まれている。しかしながら、これらは学会発表の段階に留まっている。そのため、それぞれを論文にまとめ、報告することを計画している。 次に行うのは、「空気を読めない」と認識されるエピソードの抽出である。これまでの調査を通じて、「空気を読めない」と認識されるエピソードは一通りではなく、いくつかの類型があることに気付くことができた。そこから共通項を探ることで、コミュニケーションのトレーニングに活かすことができる可能性がある。そのため、具体的なエピソードの抽出に向けた研究を行う予定であり、現在はそのための自然言語処理の学習を、Pythonで進めている。 最後に、本モデルに介入可能な要素として「教師」の役割を取り入れることを計画している。先にも述べたように、現在のモデルの課題は、教師や第三者に介入の余地が少ないことにある。そのため、攻撃行動の抑制要因として、「教師の態度」を取り上げる。「空気を読めないエピソード」が発生した際の教師の態度や行動が、その後の攻撃行動の発生・エスカレーションにどのように影響するかを検証し、モデルに組み込むことで、より実践的なモデルの構築を目指す。 以上の3つの計画を、2023年度中に進めていく予定である。
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