研究課題/領域番号 |
22J13216
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
池田 理 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 含水鉱物 / 鉄スピン転移 / 磁気相転移 / 高圧力 / 弾性波速度 / X線非弾性散乱 / メスバウアー分光 |
研究実績の概要 |
鉄水酸化物ε-FeOOHはOH基の形態で水を含む含水鉱物であり、地球内部の核マントル境界への水輸送を担う鉱物の一つと考えられている。輸送された水は核の鉄と化学反応を起こすと考えられており、その結果FeOOHなどの含水鉱物が生成される可能性がある。地球内部の高圧力条件における鉱物の物性(ふるまい)の情報は地球のダイナミクスの理解に不可欠であり、本研究ではε-FeOOHの物性の解明を目指している。ε-FeOOHは45万気圧で鉄イオンの電子配置が切り替わるスピン転移が起きることが知られており、物性への影響が予想される。本年度は、この鉄スピン転移のメカニズムや伴われる物性変化を解明するために、ダイヤモンドアンビルセルで高圧力を印加したε-FeOOH試料の音響フォノンによるX線非弾性散乱と、鉄イオンによるメスバウアー吸収の分光測定に取り組んだ。非弾性散乱から求めた弾性波速度はスピン転移前後で低下がみられ、メスバウアースペクトルは同じ圧力範囲でスピンの入れ替わりを示した。この結果は弾性の変化と転移の関係を明確に示す成果であり、国内学会で発表を行った。また、メスバウアースペクトルはスピン転移より低い8万気圧において、四極子シフトの変化を示した。これは磁気モーメントの方向が入れ替わるスピンフロップ転移に相当する。この圧力領域の先行研究は多数存在するにも関わらずスピンフロップの報告はなされていなかったため、この転移の発見は世界初であり、国際誌に投稿し掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線非弾性散乱とメスバウアー吸収の測定からε-FeOOHの鉄スピン転移に伴う弾性波速度の変化を解明し、国内学会で発表することができた。また、予想外のメスバウアースペクトルの変化が8万気圧においてみられたため、高圧測定の予備実験を並行して行う予定を方針転換し、8万気圧の変化の議論を優先することとした。結果として、この変化がスピンフロップ転移を反映していることがわかり、国際誌に投稿することができた。
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今後の研究の推進方策 |
国内学会で発表した鉄スピン転移の成果は論文化し、国際誌へ投稿する。8万気圧のスピンフロップ転移はX線回折などの先行研究で報告されていないことが興味深いため、申請当時の弾性波速度測定等の実験を行う方針を転換し、磁気構造を決定できる中性子回折実験に取り組む。中性子回折は結晶中の水素結合の特定にも有利であるため、18万気圧で予想されている水素結合の対称化の解明も同時に目指す。具体的には回折パターンにリートベルト解析を適用して結晶構造と磁気構造を精密化し、加えて差フーリエ解析を行うことで水素原子の位置を特定する。
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