研究実績の概要 |
当初の研究計画を概ね遂行した。以下に、研究計画に記載した各項目について状況を記述する。 (i) 原子炉ニュートリノ不定性の削減: 原子炉ニュートリノ異常を解決する第一原理計算を試みたところ、単寿命核種の崩壊過程におけるエネルギー準位の不定性(パンデモニウム効果)があることにより、第一原理的に正確な原子炉ニュートリノ計算が殆ど不可能であることが判明した。そこで、短距離原子炉ニュートリノ観測実験DayaBayの観測スペクトルをKamLANDにおけるスペクトルに変換することで対応した。また、低原子炉期間に相対的に寄与が大きくなる国外の原子炉について、IAEAの報告書をもとに網羅的に見積もり、系統誤差を削減した。 (ii) 検出器の経年劣化による不定性の削減: 検出器の経時変化を緩和する信号増幅器の導入を進め、現在でも進行中である。また、検出器の応答変化をパラメータ化し観測される物理パラメータに補正をかけることで、地球ニュートリノ観測データセットに検出器経時変化の影響が及ぶことのないようにした。 (iii) 地球ニュートリノフラックス、スペクトルの評価; 地球モデルの検証: 約20年分の観測データを用いて地球ニュートリノフラックス、スペクトルを評価した。KamLAND観測結果との比較から、地震波観測結果に基づいてマントル一層対流構造と比較的多くの放射化熱量を主張するHigh-Qモデルを棄却した。このことから、マントルが複数層の対流構造を持つことについて、初めて直接的な示唆を得た。この成果は学術誌Geophysical Research Letters, Volume 49, Issue 16にて報告した。 また、関連する地球科学/素粒子物理学の学会においても成果を報告した。加えて、地球ニュートリノ観測精度の更なる向上やKamLAND実験の将来計画に向けた新たな研究開発に取り組んだ。
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