細胞膜内外の電位差である膜電位は、細胞膜の基本的な特性のひとつであり、膜タンパク質のコンフォメーションを変調している。膜タンパク質の一種である電位依存性チャネルは、膜電位の変化を感受して膜を貫通するイオン流を誘起することによって活動電位を開始させる。発生した活動電位は細胞膜に沿って伝搬していき、神経伝達や心拍拍動を引き起こす。イオンチャネルの実験的な機能解析は、膜電位を固定しその際生じるチャネル電流を記録することにより行われてきた。この電圧固定法は、チャネル電流記録の基準的方法として確立されている。しかし、膜の側方方向にも電圧(膜側方電圧)を印加することができれば、膜タンパク質の隠された機能を明らかにするすることができるのではないだろうか? このような着想に基づき、これまでに膜側方電圧を印加可能な人工脂質二分子膜系の構築を行い、膜側方電圧がイオンチャネル電流の変調を引き起こすことを見出した。 また、機械学習を用いて、計測ノイズを含む単一チャネル電流をイオンチャネルの開状態と閉状態に対応する2つの離散的なレベルに分類する(idealization)解析方法を開発した。データセットを用いて性能評価を行った結果、正解ラベルに対して非常に正答率の高い出力が得られ、8割のデータセットにおいて従来手法である50%-threshold-crossing法よりも高い正答率を得た。高い正答率が得られた理由を、フーリエ変換による信号の周波数解析や、機械学習による最適化プロセスを数値化することで考察した。以上の内容を論文公開し、開発した解析手法のプログラムコード及び解析手法の性能評価のために生成した擬似チャネル電流データセットをリポジトリとして公開した。このことは、解析手法の評価プラットフォームを提供したという点において大きな意義がある。
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