研究課題/領域番号 |
22J13517
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
増田 啓人 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 磁性多層膜 / 層間交換結合 / 反対称層間交換結合 / 電流誘起磁化反転 / 電流誘起磁璧移動 |
研究実績の概要 |
層間交換結合は、強磁性/非磁性/強磁性で構成される磁性多層膜において、上下の強磁性層間に非磁性中間層を介した強磁性結合もしくは反強磁性結合をもたらす対称的な磁気相互作用である。近年、このような磁性多層膜の面内方向に空間反転対称性の破れが生じた場合、反対称的な層間交換結合が発現することが明らかになった。本研究では、層厚傾斜を活用することにより面内方向の空間反転対称性の破れを設計し、対称及び反対称層間交換結合の性質を探求してきた。令和4年度では以下の研究成果を得た。 ①対称的な層間交換結合を有する磁性多層膜における電流誘起磁化反転プロセスの解明 対称的な層間交換結合を有する磁性多層膜を用いた電流誘起磁化反転は実証されているが、そのメカニズムは十分に理解されておらず、系統的な調査が求められていた。本研究ではPt/Co/Ir/Co/Pt構造のIr層厚を変え層間交換結合強度が異なる試料を用意し、ホールバーデバイスへと微細加工して電流誘起磁化反転を調べた。その結果、電流誘起磁化反転プロセスが磁気構造に依存することをカー顕微鏡による磁区構造観察により明らかにした。また、マクロスピンモデルに基づいた数値計算によりローカルな電流誘起磁化反転プロセスを示し、層間に強磁性的な結合を有する場合の方が層間に反強磁性的な結合を有する場合より反転に要する電流値が小さくなることを明らかにした。 ②反対称層間交換結合を有する磁性多層膜における電流誘起磁璧移動 Pt/Co/Ir/Co/Ptデバイスに500 nsのパルス幅の電流を印加した後の磁区構造をカー顕微鏡により観察したところ、電流印加方向に沿って磁璧移動が生じることが明らかになった。また、下部Co層に層厚傾斜を導入することにより反対称層間交換結合を誘起させた場合、磁璧移動の速度が増大することが分かり、反対称層間交換結合の有用性を示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、層厚傾斜を有する磁性多層膜を用いた反対称層間交換結合の物理機構解明及び電流誘起磁化反転の探索を令和4年度に予定していた。現在までに、層厚傾斜を活用した系統的な調査により、反対称層間交換結合に由来する有効磁場に対称的な層間交換結合が寄与するといった物理機構の理解に貢献する成果が得られている。また、層厚傾斜を用いない場合には、電流誘起磁化反転プロセスが磁気構造に依存することを示すことができている。500 nsのパルス幅の電流を印加すると磁璧移動が生じ、さらに磁性多層膜が層厚傾斜を有する場合にはその磁璧移動の速度が増大する、といった当初の計画には想定していなかった成果も得られている。以上より、本研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
Pt/Co/Ir/Co/Pt構造における電流誘起磁璧移動については実証できているが、磁璧の移動速度と反対称層間交換結合との関係性については未だに非自明であり、理論計算による解析が必要である。現在、理論家と議論しながら解析計算及びマイクロマグネティック解析を用いた数値計算から実験結果に対する理解を深めているところであり、今後は実験・理論の双方の知見をまとめ、学術誌に論文投稿を行う予定でいる。
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