研究課題/領域番号 |
22J13566
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
福田 伊織 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 漸増捩れ倒壊 / 材料非線形性 / 幾何学的非線形性 / 非弾性座屈 / 捩れ / 数値解析 / 3D / Moment Resisting Frame |
研究実績の概要 |
本年度は,漸増捩れ倒壊のメカニズムを解明するという目的に沿って,梁や柱がバランスよく配置された「きわめて捩れにくい建築物」の簡易モデルに,基準化された観測地震動を入力する数値解析を行った.その結果,次の2つのことが新たに確認された. (1) 地震動入力に代表される動的載荷を与える場合でも,条件が揃えば簡易モデルに漸増捩れ倒壊が生じる.漸増捩れ倒壊は未だ存在が広く知られていない状況にある.そのため現段階では,きわめて捩れにくいはずの建築物でも実際には捩れる可能性があるという証拠を多数収集し,広く構造技術者に示すことが重要である.なお,この挙動の理論的検討を行った研究では,漸増捩れ倒壊が塑性分岐座屈であることが示されている.この数値解析結果がその論理を裏付けるものであるかを検討していくことも今後必要である. (2) 動的載荷に特有の要素,並びに3次元モデルを利用することで初めて考慮できる要素の中には,簡易モデルの捩れ挙動に影響を与えるものがある.本研究では,モデルの慣性モーメントの大小が捩れ変形の発生,累積,発散に影響を及ぼすことが確認された.なお,現行の耐震基準では,3次元モデルで構造解析を行うことはもとより,その解析に動的解析を含めることも必須ではないため,これらの要素が考慮されていないこともある.したがって,将来的に慣性モーメント以外の要素についても捩れに与える影響がより明確になれば状況が変化し,我が国の今後の耐震基準の改正につながる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,数値解析だけではなく理論的検討についても準静的繰返荷重や動的荷重を与える条件で検討して,高度化するとしていた.しかし,先行研究の追加調査やいくつかの数値解析を行った結果,理論の高度化には当初予想していたよりも時間がかかることが分かってきた.一方,数値解析を充実させることは現象の理解を助けるため,数値解析の推進によって理論の高度化が長期的には容易になると予想された.以上の経緯から,漸増捩れ倒壊のメカニズムを早期に解明するためには,先に数値解析を充実させることが望ましいと判断し,計画を修正することとした. 修正した計画によって,本年度は下記の2つの事項を達成している.それにより,本研究は漸増捩れ倒壊のメカニズムを解明するという目的に対して一定の進展を見せていると評価できる: 1)地震動入力に代表される動的載荷を与える場合でも,条件が揃えば簡易モデルに漸増捩れ倒壊が生じることを数値解析により示した,2)動的載荷に特有の要素や,3次元モデルを利用することで初めて考慮できる要素の中には,簡易モデルの捩れ挙動に影響を与えるものがあることを示した. 慣性モーメント以外の,動的載荷に特有の要素や3次元モデルを利用することで初めて考慮できる要素については,研究開始以降の文献調査によって興味深いものが幾つか見つかった.これにより,捩れへの影響を検討したい項目が当初より多くなったため,絞り込みを行う必要が出てきた.現在は絞り込みがおおむね完了しており,今後引き続き数値解析を実施していく.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,漸増捩れ倒壊のメカニズムの解明を目的に数値解析的検討を充実させていく.具体的には慣性モーメント以外の,動的載荷に特有の要素や,3次元モデルを利用することで初めて考慮できる要素が捩れに与える影響を検討する.検討項目の絞り込みはおおむね完了している. また,研究が進展したことで,これまで用いてきた数値解析のフレームワークで考慮可能な範囲には限りがあることや,簡易モデルで検討することが適切でない領域があることが明らかになりつつある.将来的により研究を発展させるために,この境界を明確にしていく. 漸増捩れ倒壊の発生の抑止というもう一つの目標については,質量増幅機構を有するinerterと呼ばれる先進的制振装置の捩れ変形抑制効果を調査することで推進していく.研究遂行にあたって研究代表者は,6か月間英国を訪問して現地の研究協力者と国際共同研究を実施する予定である.英国の研究グループは機械工学の分野からinerter装置を研究してきた経験があり,装置開発においても強みを有している.既存のinerter装置の欠点の一つは重量が極めて大きい超高層建築物に適用できるだけの質量増幅機構がまだ実用化段階にないことであるため,彼らとの協働により超高層建築物の制御に適した質量増幅機構の開発を目指す.
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