本研究課題では,既往の耐震工学の知見では発生理由を説明しにくい「漸増捩れ倒壊」のメカニズムを解明し,発生を抑止することを目指していた.これに対してR5年度は「漸増捩れ倒壊」の本質が塑性分岐現象であること,つまり幾何学的非線形性と材料非線形性の複合非線形効果が骨組に捩れを生じさせることを理論的・数値解析的検討によって明らかにした.加えて「漸増捩れ倒壊」では捩れが発生する際に骨組が不安定な状態になるとは限らないが,生じた捩れは急速に成長し得るためなお注意を要すること,また「漸増捩れ倒壊」の発生防止には地震によって骨組が損傷した場合においても骨組捩れ剛性を高く保つことが重要であることも理論的・数値解析的検討によって示唆された. 上記の成果は主に準静的な載荷条件の下で検討されて得られたが,研究期間全体ではこの他に地震動入力に代表される動的載荷を与える場合でも条件が揃えば漸増捩れ倒壊が生じるという結果も数値解析によって得られている.また,動的載荷に特有な要素(例: 減衰や捩れ方向の慣性モーメント等)が漸増捩れ倒壊の発生に影響を与えることも示唆されている.骨組が地震を受けた際,幾何学的非線形性と材料非線形性の複合非線形効果に起因する「漸増捩れ倒壊」が,既知の応答劣化要因による捩れとどのように相関するかは今後の研究でより一層明らかになると期待される. 本研究成果の一部は英国シェフィールド大学との共同研究により得られたものである.共同研究の成果は国際共著論文として査読付き国際ジャーナルに一篇発表しており,2024年度にも国際学会で発表を行う予定である(発表内定済).
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