本研究は、地球大気乱流の各高度における強度を事前情報として利用することによる、レーザートモグラフィ補償光学の波面推定精度の向上を目的としている。2023年度は、大気乱流プロファイラーの試験観測を5月に国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡において実施し、すばる望遠鏡サイトにおける大気乱流のデータを取得した。また、2022度に得られたデータを解析した結果を取りまとめ学術論文として発表した。
大気乱流プロファイラーは、2つのShack-Hartmannセンサーからなる光学装置であり、次世代大型望遠鏡の補償光学開発・運用において重要となる大気乱流の高度方向分布を測定する。2021年度までに本装置の設計・開発を国立天文台ハワイ観測所にて実施した。2022-2023年度には、本装置をすばる望遠鏡に搭載した試験観測を7回計画し、望遠鏡や天候のトラブルを除いて最終的に3回の観測に成功した。得られた観測データをもとに、装置が設計通りの光学性能を有することを示すとともに、大気乱流の強度が各高度にどのように分布しているかを推定した。SH-MASS解析によって推定された上層の大気乱流分布はCFHT望遠鏡における測定結果と整合的であり、我々の独自手法であるSH-MASS手法の妥当性を支持する結果が得られた。また、SLODAR解析によって推定された地表層の大気乱流は、望遠鏡のドーム内に揺らぎの大部分が集中していることを示唆した。さらに、観測データの時間方向の相関解析によって、風に伴う大気揺らぎの移動速度・方向についても各高度の分布を推定できることが分かった。これらの成果の報告として、SH-MASS解析および風速・風向解析の結果を学術論文として発表した。また、SLODAR解析の結果をまとめた論文の発表も予定している。
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