研究課題
本研究では、太陽高エネルギー粒子(SEP)が火星大気の微量成分組成に与える影響を明らかにすべく、独自に開発した数値モデル(SEP輸送モデルと汎用光化学モデル)を組み合わせて調査を行い、以下を達成した。(1) SEP輸送モデルを用いて、火星残留磁場領域で太陽高エネルギー電子・陽子がどのように火星大気に降り込むか調べた。太陽高エネルギー電子・陽子のジャイロ半径の違いにより、太陽高エネルギー電子は残留磁場の影響を強く受けカスプ領域のみに降り込むのに対し、太陽高エネルギー陽子は残留磁場の影響を受けず一様に降り込むことを明らかにした。また、太陽高エネルギー電子・陽子の降り込み高度の違いから、放射時定数が異なる複数の酸素原子オーロラ発光輝線を観測すると太陽高エネルギー電子・陽子の寄与を分離できることを示唆した。(2) 複数の惑星大気に適用可能な汎用光化学モデルを開発した。開発した汎用光化学モデルの性能評価を行い、先行研究と整合する火星大気微量成分組成が得られた。このモデル開発の成果についてまとめた論文を査読付国際誌に投稿した。(3) 太陽高エネルギー陽子の火星大気への降り込みが微量成分組成に与える影響を、SEP輸送モデルと汎用光化学モデルを用いて評価した。地球と同様に、現在火星大気でも太陽高エネルギー陽子の降り込みによって水素酸化物(HOx)密度が増大し、その結果オゾン密度が減少しうることを示唆した。太陽高エネルギー陽子の降り込みによるオゾン密度の減少が火星周回探査機に搭載された分光器による将来観測で検出可能であることを示唆し、HOx密度の増大検出に必要な観測精度を検証した。この成果についてまとめた論文を査読付国際誌に投稿した。
2: おおむね順調に進展している
太陽高エネルギー電子・陽子が火星残留磁場領域でどのように大気に降り込むかを明らかにすることができた。特に太陽高エネルギー陽子が全球的に火星大気に影響を及ぼしうることを示唆することができた。複数惑星大気に適用可能な汎用光化学モデルの開発を完了し、性能評価では先行研究と整合する結果を得ることができた。汎用光化学モデル開発の成果を学術論文としてまとめ、国際誌に投稿することができた。SEP輸送モデルと汎用光化学モデルを組み合わせ、現在火星大気にSEPが降り込んだ際の光化学反応経路を解明し、地球と同様に火星でもオゾン密度が減少しうること、推定されたオゾン減少量の検出可能性を評価することができた。本成果についても学術論文としてまとめ、国際誌に投稿することができた。概ね計画通りに順調に進んでいる。
現在の火星大気中のオゾン密度は水蒸気混合比と反相関があり、緯度・地方時・季節的に変動があることが知られている。今後はSEPの降り込みによるオゾン密度変動の緯度・地方時・季節依存性を明らかにする。また、数値モデルを過去の火星に適用し、恒常的にSEPが降り注ぐ初期火星大気の環境下で、生命起源関連分子の生成率を明らかにする。有機化合物に関連する光化学反応や光吸収・解離断面積の実装は大部分が完了している。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
The Planetary Science Journal
巻: 4 ページ: 53~53
10.3847/PSJ/acc030
Nature Communications
巻: 13 ページ: 1~9
10.1038/s41467-022-34224-6