研究課題/領域番号 |
22J20138
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井手 皓太 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | ディスコハブディン / アルカロイド / 全合成 / 連続反応 / ピロロイミノキノン骨格 / N'Sアセタール / 抗腫瘍活性 / 共役付加反応 |
研究実績の概要 |
チオディスコハブディン類の網羅的全合成に向け、当研究室において合成経路を確立したディスコハブディンBのTs保護体(以下、S1)から、種々の官能基・骨格変換を検討した。 S1のTs基を除去してディスコハブディンBへ導き、酸素雰囲気下DMF溶媒中で青色LEDを照射すると、ディスコハブディンWを得た。また、酢酸溶媒中S1にトリエチルアミンを作用させると、ジエノン部位でのOxa-Michael反応と近傍の窒素原子の分子内求核置換反応が進行し、Ts基の除去とアセチル基の加溶媒分解を行って、ディスコハブディンLの世界初の全合成を達成した。このように、Oxa-Michael反応と続く窒素原子の分子内求核置換反応が一挙に進行する予想外の結果が得られたので、本成果をさらに発展させ当初は予定していなかった類縁体の合成も取り組んだ。 S1に酢酸を作用させて得た化合物のアセチル基を塩酸により分解したのち、水酸基のメチル化、Ts基の除去により1-メトキシディスコハブディンDを得た。一方、無保護体のディスコハブディンBに対し、先と同様の酢酸付加・環化連続反応を行い1-アセチルディスコハブディンLを合成した。 一方、酸素求核剤の代わりに窒素あるいは硫黄求核剤を作用させ、対応する類縁体を合成した。まず、アジ化ナトリウムを作用させると、アジ化物イオンの付加と環化連続反応が進行し、Staudinger反応と、Ts基の除去により、1-アミノディスコハブディンDを得た。一方、アジドの還元後、ブロモ酢酸メチルを作用させてアミンをアルキル化したのち、メチルエステルの加溶媒分解とTs基の除去を一挙に行ってディスコハブディンNを合成した。さらに、ディスコハブディンBに対し、トリエチルアミン存在下、メタンチオールを作用させて、Thia-Michael反応とE2脱離を行い、1-チオメチルディスコハブディンG*/Iの合成を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、チオディスコハブディン類の網羅的全合成に向け、当研究室において合成経路を確立したディスコハブディンBのTs保護体を共通中間体として、その後の官能基・骨格変換法を検討した。共通中間体に酢酸溶媒中トリエチルアミンを作用させた際に、連続Oxa-Michael反応・分子内求核置換反応が高効率で進行し、アザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を構築できることを見出した。これは酢酸の代わりにアジ化物やメタンチオールを用いることで、Aza-Michael反応やThia-Michael反応へも応用可能であり、合計10種のチオディスコハブディン類縁体へのラセミ誘導化を達成した。本結果は、強力な抗がん活性により創薬リードとして長らく注目されつつも、海洋生物からわずかしか採取できないチオディスコハブディン類の網羅的化学合成を可能とした重要な基盤技術である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、昨年度のチオディスコハブディン類の網羅的全合成から得られた官能基変換方法に関する知見を基盤に、同様に硫黄含有ピロロイミノキノンアルカロイドであるアトカミンの世界初の全合成に取り組む。 アトカミンは、酸化に鋭敏なジヒドロベンゾチオフェンや、ピロロイミノキノンに8-オキサ-2-アザビシクロ[3.2.1]オクテン骨格が縮環した特異な構造を有する7環性化合物である。これまでに1例の合成研究が報告されるものの、形式的な[5+2]反応によるアゼパン骨格の構築は困難であり、合成上の有用な知見はほとんど見出されていない。そこで申請者は新たに、N’SアセタールをN’Oへと分子内で掛け替える骨格変換法により、ジヒドロベンゾチオフェンおよび酸素架橋アゼパンの効率的な構築法を確立しようと考えている。そのために、N’Sアセタールの硫黄選択的な活性化および、生じたイミニウムへの分子内酸素求核攻撃による連続的な8-オキサ-2-アザビシクロ[3.2.1]オクテン骨格の構築を検討する。
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