研究課題/領域番号 |
22J21779
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上松 英司 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | X線タイコグラフィ / 蓄電材料 / X線吸収分光 / Liイオン電池正極活物質 |
研究実績の概要 |
本研究では,オペランドタイコグラフィ-XAFS計測の実現と,蓄電材料の機能構造相関の解明を目標としている。本年度では,次の2点を中心に研究を行なった。 まず1つ目に,Liイオン電池正極活物質であるLi過剰不規則岩塩型バナジウム酸化物の電池容量に寄与するドメイン分布を可視化するために,合成直後と化学的酸化処理により半充電状態を模擬した試料の化学状態分布をタイコグラフィ-XAFS法を用いて計測を行なった。そして得られた試料像から化学状態分布を取得し,データクラスタリング手法を活用することで充電反応が進行しているドメインの分布を可視化することに成功した。 2つ目に,Liイオン電池正極活物質を電池動作下のオペランド条件でタイコグラフィ-XAFS計測を行うための反応セルの開発を行なった。まず,反応セル設計の前段階として,LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(NMC111)正極活物質粒子をターゲットとしガラスセルを用いて電気化学実験を行い,計測セルで用いる電極および電解液の検討を行った。その結果,X線透過窓を有するメンブレンにTiを成膜し集電体とし,LiTFSI電解液を用いることで,NMC111正極活物質の充放電をX線透過窓上で行うことに成功した。そして3Dプリンターを用いて,反応セルの試作を行った。封入する電解液の量,作用極,対極,参照極の配置などの検討を行い,電解液を封入した状態での充放電に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由として,封入セルを用いた正極活物質の充放電に成功したことが挙げられる。オペランドタイコグラフィ-XAFS計測において,電解液を封入しX線透過窓を有する反応セルの開発が必要である。これまで,正極活物質の可逆的な充放電反応を得ることができなかったが,電解液,集電体金属ならびにセルの材質と構造を検討することで,3Dプリンターで試作した封入セルで正極活物質の可逆的な酸化・還元反応を確認できた。今後,この封入セルをX線透過窓を取り付け可能な形に発展させることでオペランドタイコグラフィ-XAFS計測の実現に挑む。
|
今後の研究の推進方策 |
今後,充放電が可能かつタイコグラフィ-XAFS計測可能な反応セルを実現し,オペランドタイコグラフィ-XAFS計測の実施を目指す。現状,3Dプリンターを用いて作製した封入セルでの充放電に成功している。この封入セルからX線透過窓を有する反応セルへ発展させ,放射光施設SPring-8にてオペランドタイコグラフィ-XAFS計測を行う。この反応セル開発における現状の課題として次の2点が挙げられる。 1点目は,X線透過窓と電極間の電解液の吸収による透過X線の強度減少である。現状,X線透過窓と電極間の距離は300 μmほどでは可逆的に充放電操作可能であり,X線透過窓と電極間の距離が数十μmほどでは動作しない現象が確認されている。硬X線領域において300 μmほどの電解液が光路上に存在した場合,透過X線の強度が40 %ほど減衰すると試算される。この課題を解決するために,X線透過窓と電極間の距離が数十um においても可逆的に動作する構造,例えばポンプ等を用いて電解液の流動を促す構造といった検討を行う。 2点目は,タイコグラフィ-XAFS計測での視野内の粒子の反応の確認である。タイコグラフィ-XAFS計測における計測視野は数μm四方ほどである上に,一度の計測に数時間を要する。放射光施設での限られた計測時間では視野内の粒子が,確実に反応することが求められる。この課題を解決するため,オペランドタイコグラフィ-XAFS計測を行う電極上粒子周辺の反応分布を事前にラマン分光計測を用いて確認を行うことが可能な 形の反応セルの形状を模索する。
|