研究課題/領域番号 |
22KJ0316
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柳下 晴也 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | juxtacellular記録 / 単一細胞遺伝子発現解析 / Sharp wave ripple |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に確立したSpike-seq法を用いて、ウレタン麻酔下の背側海馬CA1野神経細胞の発火活動とその細胞の単一細胞遺伝子発現プロファイルの関連を解析した。Spike-seq法は、in vivo条件で電気生理学的に発火活動を記録した神経細胞のもつ遺伝子発現プロファイルを、単一細胞RNAシーケンス解析により網羅的に解析する手法である。回収した48細胞のサンプルのうち、電気生理データと遺伝子発現データ双方で十分なクオリティであった海馬CA1野興奮性錐体細胞40細胞について複数の解析を行った。 まず、海馬の基本的な発火パターンと関連した遺伝子の探索を行った。その結果、短い時間に連続して発火する細胞では、エネルギー産生にかかわるATP5ファミリー遺伝子が一貫して高い発現を示すことを見いだした。また、神経細胞の脱分極の速度が、特定の電位依存性ナトリウムチャネル調節因子(SlmapとScn2b)の発現量と有意に相関していることを示した。 さらに、記憶の固定化に重要な脳波であるsharp-wave ripple (SWR)に着目した解析を実施した。本研究課題の特色である電気生理記録データと遺伝子発現データを関連付けた解析により、SWR中に発火しやすい細胞と発火しにくい細胞の間で有意に発現変動する数百の遺伝子セットを同定した。さらに、この遺伝子セットの中から1つのカリウムチャネルに着目し、その機能を詳細に解明するための実験アプローチを確立した。具体的には、このカリウムチャネルの発現を抑制するプラスミドベクターを作製した。作製したプラスミドベクターは、子宮内電気穿孔法により海馬CA1興奮性錐体細胞特異的に導入でき、生体内でカリウムチャネルの発現を抑制できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度前半は、昨年度確立したSpike-seq法を用いることで、記憶に関連するシャープウェーブリップル(SWR)中の発火活動に関連する遺伝子の探索を行った。40細胞のSWR中の発火活動と遺伝子発現データから、SWR中の発火しやすさと相関する遺伝子セットを見出した。また、本年度の後半では見出した遺伝子がSWR中の発火活動に与える影響を検証する実験系を確立した。検証実験は候補遺伝子の発現を低下させたマウスを用いて行う。そのため、遺伝子導入実験により候補遺伝子の発現を低下させるマウスを用いる実験系と、Cre依存的に標的遺伝子を欠損させたマウスを用いる実験系を立ち上げた。追加で、これら2種類のマウスを用いた検証実験や、見出した遺伝子の機能を探る行動試験の検討を進めた。 当初の研究計画では、本年度は記憶に関連する海馬神経細胞の発火活動と関連する候補遺伝子を見出し、その発現を操作した検証実験系を立ち上げることを目標としていた。本年度はこれに加えて次年度に実施する予定であった行動実験の検討も行うことができた。さらに、国際学会や査読付き論文として研究内容を発表できたことから、本年度は研究計画を上回る研究の進展があり、最終年度の来年もさらなる進展が期待できると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Spike-seq法により見出したSWR中の発火活動と関連して発現しているカリウムチャネルの機能を検証する。 まず初めに、見出したカリウムチャネルの発現量を抑制した細胞で、SWR中の発火活動がどう変化するかを検討する。昨年度構築した、標的遺伝子の遺伝子を抑制しつつ、その細胞にGFPを発現させるプラスミドベクターを用いる。子宮内電気穿孔法を用いて海馬CA1興奮細胞特異的にカリウムチャネル発現抑制プラスミドベクターを導入する。これにより、標的遺伝子の発現を抑制した細胞のみにGFPが発現するマウスを作成できる。本動物を用いてjuxtacellular記録を行うことで、カリウムチャネルの発現を抑制した細胞とそうでない細胞の間でSWR中の発火活動がどう異なるかを検討できる。 さらに、Cre依存的に標的遺伝子が欠損するcKOマウスを用いて、標的遺伝子が生体における記憶形成にどのような影響を与えるかを検討する。行動試験には新奇物体認識試験を利用する予定である。
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