研究課題/領域番号 |
22J22810
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
土本 菜々恵 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 連星中性子星合体 / キロノバ / rプロセス |
研究実績の概要 |
中性子星合体からの電磁波放射 (キロノバ) のスペクトルに現れる吸収特徴を調べるにあたり、これには実験室分光に基づいた正確な原子データを用いる必要があるが、このようなデータは特に赤外線域にほとんど存在していなかった。そのため、実験室分光で知られている遷移波長と理論的な原子構造計算による遷移確率を組み合わせる新しい手法を開発し、重元素の束縛遷移の新しい原子データリストを構築した。これを用いてキロノバの輻射輸送シミュレーションを行い、合体後数日における詳細なキロノバのスペクトルを計算した。その結果、赤外線でランタン (原子番号57) とセリウム (原子番号58) が吸収特徴を作ることを明らかにし、2017年に観測されたキロノバのスペクトルにおける赤外線の吸収特徴をこれらの元素で説明できることを示した。以上の結果を論文にまとめ、The Astrophysical Journalに発表したほか、所属機関からプレスリリースを行った。 また、理論計算による束縛遷移の遷移確率は不定性があり、実験的に精査する必要がある。そこで同じセリウムの赤外線域の吸収線が見られる恒星の高分解能スペクトルを用い、遷移確率の推定に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、分光的に正確な原子データと理論計算による原子データを組み合わせ、物質全体の吸収効率を正しく評価したキロノバの輻射輸送シミュレーションを行うことを計画していた。当初はこれを2次元に拡張し、より現実的な中性子星合体からの放出物質の構造を考慮する予定であったが、現在は1次元球対称を仮定した単純なモデルにとどまっている。一方、研究実績の概要で述べた原子データ構築の中では、次年度以降に計画していた分光実験データベースと理論計算の比較や、理論計算の束縛遷移の遷移波長較正を行っており、さらに恒星の分光データを用いた遷移確率の精査まで進んでいる。以上より、計画全体はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
恒星の分光データを用いて精査したセリウムの束縛遷移の遷移確率をキロノバの輻射輸送シミュレーションに組み込み、赤外線域における吸収特徴の振る舞いについてモデルを精緻化する。 また、これまでに調べてきた吸収特徴について、定量的にこれらが現れる条件までは調べられていない。よって多様な放出物質のモデルを構築し、輻射輸送シミュレーションによって異なる質量や速度、元素組成によるスペクトルへの影響を調べる。中性子星合体の放出物質は多次元構造を持つと考えられているが、まずは1次元でこれを模倣し、スペクトルの振る舞いを理解する。
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