研究課題/領域番号 |
22J40070
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 奈穂子 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 海馬 / ストレス / 記憶 |
研究実績の概要 |
動物は他の動物に攻撃されるような精神的なストレス負荷を受けると、不安やうつ症状などの精神破綻を生じる。本研究の目的は、慢性的な精神的ストレス負荷に対して、脳の生理活動がどのように亢進・減退していくのか電気生理計測法を用いて明らかにすることである。特に近年、記憶や情動に関わる腹側海馬・扁桃体とストレスとの関連が明らかになってきており、こうした神経回路活動の相互作用にも着目する。しかし、腹側海馬や扁桃体などの脳領域は深部に存在するため、電極設置が難しく、大脳新皮質と比べて計測した先行研究が極めて少なかった。 本年度は、腹側海馬と扁桃体からの電気生理計測を可能とし、この計測装置を設置したマウスにストレスを負荷して、ストレス負荷前後での脳の生理活動の変化を解析した。計測したマウスにおいて、ストレス負荷に対する感受性・抵抗性群を分類し、それぞれの脳波を解析したところ、ストレス感受性群では、ストレス負荷の2時間後まで、腹側海馬の神経活動の増加が見いだされた。一方、ストレス抵抗性群では、このような腹側海馬の神経活動の変化は見られなかった。さらには、腹側海馬の神経活動の増加が大きい個体ほど、強いストレス感受性を示すことを明らかにした。これらの結果は、ストレス記憶をより強化するような腹側海馬の活動によって、その後のストレス誘発性の精神症状が発現しやすくなる可能性を示唆している。また、腹側海馬のこのような活動変化に伴って、扁桃体の30‐90 Hzの脳波も増強されることを見出した。 今後は、神経活動を記録した動物の腹側海馬から遺伝子発現解析(RNAseq)を行い、ストレス感受性・抵抗性の両群の神経生理活動と遺伝子発現パターンの対応関係を明らかにすることで、ストレス応答の個体差を説明する脳のメカニズムを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず、これら脳領域の座標に合わせて、3D プリンターを活用して計測装置を独自に設計し、腹側海馬と扁桃体から安定した電気生理計測を可能とした。この計測装置を設置したマウスにストレスを負荷し、ストレス負荷前後での脳の生理活動の変化を解析した。本申請研究では、マウスへのストレス負荷として、社会的敗北ストレスモデルを利用している。これは体格の小さいC57BL/6Jマウス(計測対象)が、より大きいICRマウスから物理的な攻撃を受けるモデルである。精神的ストレスによるうつ様症状を最も良く再現できる動物モデルとして汎用され、ストレス感受性群(発症する群)と抵抗性群(発症しない群)に分かれるという特長がある。計測したマウスにおいて、ストレス感受性・抵抗性群それぞれの脳波を解析したところ、ストレス感受性群では、ストレス負荷の2時間後まで、腹側海馬の神経活動(リップル波の出現量および発火頻度)の増加が見いだされた。一方、ストレス抵抗性群では、このような腹側海馬の神経活動の変化は見られなかった。さらには、腹側海馬の神経活動の増加が大きい個体ほど、強いストレス感受性を示すことを明らかにした。これらの結果は、ストレス記憶をより強化するような腹側海馬の活動によって、その後のストレス誘発性の精神症状が発現しやすくなる可能性を示唆している。また、腹側海馬のこのような活動変化に伴って、扁桃体の30‐90 Hzの脳波も増強されることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、このストレス負荷時の腹側海馬の神経活動を、光遺伝学的・薬理学的手法、または電気的なフィードバック刺激を用いて制御した場合に、ストレス感受性・抵抗性という行動表現型が変化するかの検討を行っている。また、これらの神経活動を記録した動物の腹側海馬から、遺伝子発現解析(RNAseq)を行うための微量組織を回収する手法も構築中である。ストレス感受性・抵抗性の両群の神経生理活動と遺伝子発現パターンの対応関係を明らかにすることで、ストレス応答の個体差を説明する脳のメカニズムを明らかにしたいと考えている。
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