研究課題/領域番号 |
22KJ0324
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 奈穂子 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
キーワード | ストレス応答 / 腹側海馬 |
研究実績の概要 |
動物は精神的なストレス負荷を受けると、不安やうつ症状などの精神破綻を生じる。本研究の目的は、慢性的な精神的ストレス負荷に対して、脳の生理活動がどのように変化していくのか、電気生理計測法を用いて明らかにすることである。昨年度は、社会的敗北ストレスを負荷したモデルマウスから腹側海馬の神経活動を計測し、ストレスに対する感受性が高い個体ほど、海馬の記憶に関連する特徴的な脳波(リップル波)の発生頻度が増加することを見出した。そこで今年度は、こうしたストレス感受性・抵抗性の個体差が、どのような遺伝的背景に由来するのかを明らかにするべく、腹側海馬からマイクロアレイ解析を行った。本研究では、将来のストレス感受性・抵抗性を予測する因子を見出す目的で、ストレス負荷前のC57BL/6Jマウスの腹側海馬から微小組織を採取してマイクロアレイ解析を実施し、さらに同一個体に社会的敗北ストレス負荷することで、個体に固有の遺伝子発現と、ストレス負荷による表現型との関連を検証した。その結果、ストレス負荷後に、ストレス感受性の表現型を示した群では、抵抗性群に対して、48遺伝子が有意に高く発現していた。その中の代表的な遺伝子として、カルシウム結合タンパク質の一種であるカルビンジン1に着目した。カルビンジン1は、神経細胞内のカルシウムイオンを調節し、海馬の記憶機能に重要な役割を果たすことが報告されている。そこで、カルビンジン1をノックダウンするAAVベクターを腹側海馬に注入したマウスに、社会的敗北ストレスを負荷したところ、すべてのマウスがストレス抵抗性を示した。さらに腹側海馬の神経活動においても、ストレス感受性群で見られたようなリップル波の増加がみられなかった。以上の結果から、腹側海馬の神経細胞におけるカルビンジン1の発現が、ストレス感受性・抵抗性の個体差を決定する因子であることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、腹側海馬における遺伝子発現の個体差が精神的ストレス負荷によって生じる行動発現の個体差(ストレス感受性、抵抗性)に影響すること、こうした腹側海馬の遺伝子発現の違いが精神的ストレス負荷後に生じる神経活動に影響し、その後の行動発現の違いにつながることを見出すことができた。当初の予定通り、研究はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
社会的敗北ストレス負荷後に生じる腹側海馬のリップル波が、その後のストレス感受性を惹起していると考えられるため、このリップル波を消去した動物で、行動発現に変化がみられるかを検証していく予定である。そのため、リップル波の消去法(リップル波の発生をオンラインで検出し、フィードバック電気刺激を行う手法や、より自然条件での消去法)を、現在確立中である。
|