研究課題/領域番号 |
22J00417
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
荘司 一歩 山形大学, 山形大学人文社会科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 考古学 / アンデス / 公共建造物 / 環境変動 |
研究実績の概要 |
初年度である本年度は、研究環境の整備に努めるとともに、現地で採集した現生サンプルおよび、遺跡から出土した貝殻の微細成長線解析と酸素同位体比測定を行い、先史アンデス古期(5000-3000BC)の環境変動の解析を実施した。その結果、ペルーの北海岸では4000BC頃にエル・ニーニョ現象の規模と頻度が大きく増加するような環境変動が起きていたことが明らかになり、それに伴って海産物を中心とする資源利用戦略にも大きな変化が起きていたことが実証された。これと機を同じくして、ペルー北海岸では廃棄物の集積がモニュメント建築へと変化していくことが分かっており、アンデス文明史において長らく課題となっていたモニュメントの創出過程について環境変動が契機となっていたという重要な知見を再確認するにいたった。 また、ペルー中央海岸におけるモニュメントと環境変動の関係を明らかにすることを目的とした発掘調査の準備作業も実施した。当初は先行研究において報告されているアルメハス遺跡を調査予定であったが、8月に実施したペルー共和国での遺跡踏査の結果、遺跡の保存状況が良くないことが判明した。3月に実施した追加の踏査で、保存状況が良好で研究目的にも合致したプラヤ・クレブラス遺跡を選定するに至り、発掘調査対象遺跡を変更することとなった。遺跡の選定は研究の成否を決めるうえで非常に重要な作業であるが、奇しくも踏査で訪れたプラヤ・クレブラス遺跡は、廃棄物の集積であるマウンドとその後の神殿建築が併存する遺跡であり、両者の通時的な関係性を把握するために非常に適した事例といえる。保存状況の悪いアルメハス遺跡から、こちらの遺跡に調査対象を変更することで、研究課題の解明に向けた、より明確な見通しを得ることができた意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
来年度に実施する発掘調査に向けた準備と事前調査が大きく進展したことから、本研究計画は順調に進んでいるといえる。ペルー文化省への発掘調査の申請に欠かせない測量図の作成を踏査に伴って実施し、ドローンでの空撮と写真解析ソフトを用いた詳細な遺跡地図を作ることに成功した。この地図をもとに、遺構の分布を推定し、発掘調査区の選定をすることができた。また、遺跡周辺の地域コミュニティや行政組織と会合を持ち、遺跡の調査に関しての了承と協力関係の構築に向けた合意を得るにも至った。こうした作業は、海外の地で発掘調査を円滑に実施するために極めて重要な作業である。また、将来的に遺跡の保存と活用を進めていくためにも、その協力は欠かせないといえる。国内で実施した、環境動態の復元にかかわるデータの解析と合わせて、発掘調査の実施に向けた事前準備を一通り終えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
環境変動とモニュメントの創出過程について汎アンデス、そして人類史的な視点から解明するため、ペルー北海岸の事例と中央海岸の事例の比較を進めていく。令和5年度と6年度は、これまでに中心的に調査を続けてきた北海岸に対し、調査や研究の少ない中央海岸で発掘調査を実施し、データの収集と分析に努める。調査対象となるプラヤ・クレブラス遺跡は、マウンドと神殿を併せ持ち、建築的特徴や遺物の構成からも、北海岸の諸遺跡と同時代のものであると想定される。発掘調査の実施は、本研究計画において重要な位置づけにあることから、入念な準備をしてこれに臨む。調査データや出土した遺物の整理と分析についても、現地の研究者と協力しながら進めていき、中央海岸における環境変動、資源利用、モニュメント利用のデータを着実に集め、環境変動が人類史に与えた影響について、対象的な2つの地域史の比較を通して明らかにしていく。
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