有機電界効果トランジスタ(OFET)は有機結晶材料を用いた代表的な電子デバイスであり、軽量性やフレキシビリティー性に優れることから近年精力的に研究が進められている。特に、有機化合物の特徴を活かした塗布法による素子作製はプリンテッドエレクトロニクスに必要な基本技術であり、高い溶解性を持つ材料の開発が求められている現状がある。本研究では、新規非対称型チエノアセンとして縮環構造の異なる4種類のジベンゾチエノチオフェン(DTBT1、DTBT2、DTBT3、およびDTBT4)とこれらをジヨウ素化したDI-DTBT1、DI-DTBT2、DI-DTBT3、およびDI-DTBT4を合成し、薄膜および単結晶構造解析による分子配向性の調査と溶液法によるFET素子を作製し電荷輸送特性を評価した。 合成したDTBT異性体およびDI-DTBT異性体を用いて溶液剪断法により素子を作製したところ、DI-DTBT異性体においてDTBT異性体より良好な電荷輸送特性を示しFET特性として優れることが明らかになった。また、単結晶X線構造解析と薄膜X線回折は、DI-DTBT異性体においてヨウ素-ヨウ素相互作用により電荷輸送に有利な分子配向性であった。さらに、チエノアセンの組み合わせによって分子軌道の形状からそれぞれθ型およびγ型構造の分子配向性を調整できることが示唆された。本結果は、ヨウ素を用いた分子設計指針の有用性を支持するだけでなく、ヨウ素-ヨウ素相互作用と分子軌道分布が協働的に分子配向性へ寄与することを示している。ヨウ素化非対称チエノアセンを基盤とする塗布型有機半導体材料のさらなる展開が期待される。
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