研究実績の概要 |
西ドイツの図書館の展開について着目し研究をおこなった。とりわけ、図書館理念が掲げられたのかを分析した。その際には、ナチ期において図書館が「民族精神の武器庫」(M.Stieg, Public Libraries in Nazi Germany,1992)と位置づけられたことに鑑み、図書館の教育的理念・役割にどのような変化が見られたのかに着目した。同時に、民主主義の定着・市民教育を志向する西ドイツ教育界の思想・運動と、図書館がどのような関係性の下にあったのかについても注意を払い、関連文献を収集した。具体的には、占領期~50年代においてアメリカのパブリック・ライブラリー思想をどのように受容したのかについて考察を進めた。結果、戦後西ドイツの図書館では、理念的にはナチ時代の反省・図書館の民主化が最優先されたことが判明した。同時に、ナチ時代と人員としては主要な人物も残存し、戦後西ドイツ図書館界においてナチ時代から継続して一定の地位を占めていたことが判明した。今後は、この図書館理念の変化が最も反映されるであろう学校図書館・児童図書館を対象として、具体的な図書館実践の変化を解明していきたい。それと同時に、ナチ時代から継続して活躍した図書館員についても、個別に経歴・思想の変化を追うことによって、戦後西ドイツ図書館界を重層的に描くことが可能になると思われる。 本研究内容と関連する具体的な研究成果としては、「ヴァイマル期ドイツにおける閉架式図書館の教育理念─1920 ~30 年代W・ホーフマンの活動に着目して─」『日本図書館情報学会誌』 68(3)、2022年9月、178-187頁を掲載した。また資料紹介として、「(資料紹介)ナチス・ドイツの禁書目録・推薦図書目録」『図書館文化史研究』 (39)、2022年9月、201-225頁を執筆し掲載した。
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