研究課題/領域番号 |
21J00226
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
北園 智弘 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 睡眠 / シグナル伝達経路 / キナーゼ / AMPK |
研究実績の概要 |
本研究では申請者が所属する研究室において近年発見された新規睡眠制御分子SIK3の上流、および、下流のシグナル伝達経路の全容を明らかにすることを目的としている。 SIK3の下流因子はほとんど明らかになっていないことから、申請者は昨年度までにin vitro基質スクリーニングを用いて、睡眠覚醒制御機構におけるSIK3の基質を探索し、複数のSIK3新規基質候補を見出した。さらに、この候補タンパク質について、パスウェイ解析を行ったところ、SIK3の下流でRhoA-GTPase経路が機能している可能性が高いことを見出した。これを受け、本年度はRhoA-GTPase経路を活性化や不活性化させることによって睡眠異常が生じるかを検討するため、変異型マウスやマウスへのAAVインジェクションを用いて解析を行うことを計画し、準備を進めた。上記の解析は来年度中の完了を予定している。また、SIK3認識配列との相同性の高い配列を持つ有力候補のタンパク質について、SIK3によるリン酸化が認められるかを検証するキナーゼアッセイの準備を進めた。こちらも来年度中には基質の同定が完了する予定である。 一方、申請者は睡眠覚醒制御機構におけるSIK3の上流制御因子の候補として、セリンスレオニンキナーゼLKB1に着目した。LKB1が睡眠覚醒制御に関与しているかを検証するために、LKB1ノックアウトマウスを作製し、睡眠測定を行った。その結果、LKB1ノックアウトマウスは顕著な覚醒時間の増加と睡眠要求の減少を示した。さらに、LKB1ノックアウトマウスにおけるSIK3上のLKB1リン酸化部位に疑似リン酸化変異(グルタミン酸置換)を導入したマウスでは、この変異型マウスでは睡眠要求の減少が回復することも明らかにした。これらの結果から、睡眠覚醒制御機構において、LKB1はSIK3の上流で機能していることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね計画通りに進展している。 本年度は前項に記載したように、SIK3の下流でRhoA-GTPaseシグナル伝達経路が機能している可能性が高いことを見出し、これを検証するための変異型マウス等を取りそろえた。来年度はこれらのマウスの解析を行う予定である。また、LKB1がSIK3の上流で機能していることを、マウスの脳波・筋電図測定による睡眠測定によって示したが、現在この結果を論文として投稿中である(Staci K., Kitazono T., et al., 投稿中)。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はin vitro基質スクリーニングを行い、複数のSIK3新規基質候補を見出したが、その中でもあるRhoA-GEF(基質Xと呼称する)について、予備実験においてSIK3によってリン酸化されることを確認している。来年度はこの基質XをSIK3新規基質の有力候補として解析を行う。まず、SIK3によって基質Xがリン酸化されることをキナーゼアッセイで確認したうえで、基質XのSIK3リン酸化部位に疑似リン酸化変異・非疑似リン酸化変異を導入した変異型マウスをCRISPR/Cas技術を用いて作製し、脳波・筋電図測定で睡眠異常が生じるかを検証する。また、これと並行して、AAV-PHP.eBを用いて、マウス脳で基質Xを過剰発現させた際の睡眠行動の変化も同様に検証する。さらに、基質Xについて、SIK3リン酸化部位のリン酸化状態と細胞内局在について、in vitroで検証することで、睡眠制御における基質Xの分子機能の解析も並行して行う。さらに、SIK3の下流でRhoA GTPaseが機能している可能性を検証するため、Rhoの上流因子であるG12の共役型デザイナーGPCR(G12-DREADD)発現マウス、および、恒常活性型RhoA発現マウスの睡眠測定を行い、睡眠異常が生じるかを検証する。 さらに、SIK3の上流因子候補として申請者が考えているCaMKK2βとMAP3K7について、ノックアウトマウスの睡眠測定を行う。また、LKB1、CaMKKβ、MAP3K7のノックアウトマウスを睡眠遮断した際のSIK3のリン酸化レベルを、質量分析計を用いて解析することで、睡眠要求量の制御とこれらのキナーゼの関係性を調べる。
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