本研究の目的は、研究代表者の研究室で近年発見された新規睡眠制御分子SIK3の上流および下流のシグナル伝達経路を解明することである。 SIK3はAMPKファミリーに属するキナーゼで、LKB1、TAK1、CaMKKβの3種類のキナーゼによって制御されることが知られている。昨年度までに、LKB1ノックアウトマウスにおいて、睡眠要求の指標であるノンレム睡眠時間とノンレム睡眠時デルタ波密度が減少することを示し、LKB1がSIK3の上流で睡眠覚醒を制御していることを突き止めた。さらに本年度、TAK1ノックアウトマウスでは睡眠表現型に異常は見られないが、CaMKKβノックアウトマウスではノンレム睡眠時デルタ波密度が増加し、レム睡眠時間が長くなることを明らかにした。CaMKKβノックアウトマウスの表現型は、Sik3ノックアウトマウスの表現型と大きく異なることから、CaMKKβはSIK3の上流因子ではなく、SIK3とは独立したシグナル伝達経路で睡眠覚醒を制御していることが示唆された。 本年度、研究代表者は、昨年度までの基質スクリーニングによって見つかっていたグアニンヌクレオチド交換因子ARHGEF2がSIK3の基質であることを生化学的に証明し、さらにこのリン酸化によってARHGEF2の細胞内局在が変化することを明らかにした。この細胞内局在はARHGEF2の活性と相関している可能性が高い。ARHGEF2は低分子量Gタンパク質RhoAの活性化因子である。昨年度、恒常的活性型RhoAをマウスの全脳に発現させたマウスを用いて睡眠測定を行ったところ、ノンレム睡眠時間とノンレム睡眠時デルタ波密度が減少していることがわかった。これらの知見は、RhoAがSIK3の下流で睡眠と覚醒を制御している可能性が高いことを示している。
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