研究課題/領域番号 |
21J00237
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
杉山 誉人 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | Revertant mosaicism / 液液相分離 / RNA toxicity / ユビキチン / 翻訳制御 / DNA修復 |
研究実績の概要 |
希少な遺伝性疾患の症例報告では、その遺伝子変異が直接的な原因であることを強める証拠として「変異型mRNAもしくはタンパク質の発現低下」が言及されているのみの報告が多く、遺伝性疾患の治療戦略を検討するにあたり必須である「遺伝子変異が最終的に遺伝産物の発現低下を引き起こす分子機構」は解明されていない。本研究で申請者は、遺伝性皮膚疾患に着目し 、「発現低下を引き起こす標的分子、経路」 の同定とそれらを利用した治療戦略の提案を行う。そのため、研究対象とした「患者皮膚細胞における変異により実際に角質の形成異常が起こる5種の遺伝子変異」を起因とする疾患発症過程において、なぜこれら遺伝子変異が標的タンパク質を顕著な発現低下へと導くのか、さらにどのように変異型タンパク質が変化し異常機能獲得をすることで最終的な表現型を示すのか、を明らかにすることで、異常な遺伝子発現のメカニズムの理解とそれに伴う疾患発症機序の解明を目的とする。 魚鱗癬のうち、特徴的な自然治癒現象を伴うIchthyosis With Confetti (IWC)について解析を進めた結果、この原因となる特定の遺伝子変異由来の変異型タンパク質は、液液相分離と呼ばれる物性変化を引き起こすことを明らかにした。また、DNAやRNAに対し、変異型タンパク質が相互作用することによって、DNA修復や翻訳制御に関与する可能性が示唆されている。 また、長島型掌蹠角化症の原因変異についても解析を進めており、その変異型タンパク質が凝集性を獲得すること、またユビキチンとは異なる翻訳後修飾を受けて分解誘導されることを見出している。 上述したように、当該年度の成果により、疾患発症の原因となる変異型タンパク質は、野生型タンパク質とは異なる物性変化をすることで、核酸との相互作用、翻訳後修飾を受けることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題はいずれも当初の想定とは異なる展開になったものの、当該年度の研究により新たな一面を見出すことができた。 魚鱗癬のうち、特徴的な自然治癒現象を伴うIchthyosis With Confetti (IWC)について解析を進めた結果、この原因となる特定の遺伝子変異由来の変異型タンパク質は、液液相分離と呼ばれる物性変化を引き起こすことを明らかにした。当初、これらの変異型遺伝子では特定のコドンの連続配列が含まれていたことから、コドン組成に依存した発現制御を受け、疾患発症に至るのではないかと想定していたが、実際には、変異型タンパク質が新たに機能を異常獲得することで、DNA修復や翻訳制御に関与する可能性が示唆されてきている。 また、長島型掌蹠角化症の原因変異についても解析を進めているが、当初は古くから研究が盛んに行われているNMDと呼ばれるmRNA分解系を介して、変異型mRNAおよびそれ由来の短鎖型タンパク質が発現抑制を受けていると想定していた。しかしながら研究の結果、その変異型タンパク質が凝集性を獲得すること、またユビキチンとは異なる翻訳後修飾を受けて分解誘導されることを見出している。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究の結果、魚鱗癬のうち特徴的な自然治癒現象を伴うIchthyosis With Confetti (IWC)や長島型掌蹠角化症(NPPK)の原因となる変異遺伝子では様々な細胞内反応が惹起されていることを明らかにした。 IWCについては、液液相分離と呼ばれるタンパク質の物性変化が引き金となり、DNA修復や翻訳制御が誘発されている可能性が示唆されている。今後は、実際に液液相分離と核酸との相互作用やそれがもたらす影響や特異性について明らかにすることで、遺伝子変異と疾患発症、自然治癒との間の溝を埋めるような詳細な解析を進めたい。 NPPKについては、変異型タンパク質が新たな翻訳後修飾を受けることを見出している。今後は、その翻訳後修飾の重要性や詳細な鎖型等を明らかにすることで、生体にとって有益なチェックポイント分子を同定したい。
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