本研究では、角質形成異常が起こることが報告されている5種の遺伝性皮膚疾患に対し、分子生物学および細胞生物学的アプローチにより、病態発症機序を解明することを目的とした。特に①加齢と共に病因となる遺伝子変異が修復、消失し、白い紙吹雪(confetti)様の健常皮膚斑が数千箇所も多発し、部分的に自然治癒する極めて稀なタイプの魚鱗癬、②日本人に推定約1万人の患者が存在するとされている長島型掌蹠角化症、③国民病ともされるアトピー性皮膚炎に対し、それぞれの病原性変異を持つmRNAおよびタンパク質の細胞内挙動を解析した。その結果、それぞれに対し、①病原性変異型タンパク質が自身の物性変化により液液相分離を介した制御を受けること、②病原性変異型タンパク質の細胞外分泌不全が疾患発症の根本的原因であることや、その制御には糖鎖を介した厳密な細胞内品質管理が関わること、③未知の分子機構を介したmRNA分解系により病原性変異型mRNAが分解されタンパク質の産生が抑えられていること、を明らかにしている。特に①は生物物理学、②は糖鎖生物学を分子生物学と組み合わせ解析を進めたことで、②については論文投稿準備中である。本研究の成果をもとに、②や③については新たなアプローチによる治療戦略が見込めることに加え、①についてはその分子機構の解明により遺伝性疾患に対する自然治癒療法の開発も期待されることから、詳細な病態発症機序の解明を進めていく。
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