本研究課題では、理論限界の追求という観点から、極値集合論と呼ばれる、与えられた条件を満たす最大あるいは最小の集合を考究する離散数学とそこで中心的役割を果たす確率的組合せ論を、情報科学における符号理論分野での応用を探求することを主眼に、情報科学と離散数学の境界領域において活発に研究を行なった。 本研究では特に、その問題解決により他の問題への波及効果が見込まれる離散構造に焦点を当て、具体的には weak superimposed 符号や自己同期符号等の離散構造に関して、理論限界や構成アルゴリズムを導出している。 最終年度の研究では、情報通信において、シンボルレベルでの同期がすでに取れているという前提の下で、フレームと呼ばれる意味ごとの区切り間の境界を検出するためのフレーム同期の問題に取り組んだ。伝送率を大きく犠牲にしてしまう空白等の特殊文字の使用や、文脈に頼ることなく、機械的にフレーム同期を可能とする符号は自己同期符号と呼ばれる。この符号については、代数学が特に有効であるような限られた状況のみを考察する研究が盛んに進んでいる一方で、現実的な時間で符号化と復号が可能なものはそのほとんどが非常に低い伝送率か、あるいは雑音に対して弱いものしか知られていなかった。 本研究では、50年以上未解決であった、Levenshtein 限界と呼ばれる符号理論の限界式が漸近的に達成可能であるかという歴史的問題を確率的組合せ論により肯定的に解決することにより、実用的な自己同期符号の効率的構成アルゴリズムを、漸近的に達成可能な範囲にある任意の伝送率と任意の誤り訂正能力について提示することができた。
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