研究課題/領域番号 |
21J20176
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
特別研究員 |
蓮沼 寛介 筑波大学, 人間総合科学学術院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 外側中隔 / 攻撃行動 / 社会的不安 / エストロゲン / マウス |
研究実績の概要 |
外側中隔(lateral septum: LS)に発現するエストロゲン受容体(estrogen receptor: ER)αとERβは、攻撃行動や不安の制御に寄与する可能性が示唆されている。特に、攻撃行動の制御にはERαとERβで異なる機能をはたすと考えられている。先行研究から、ERβは不安の制御に重要な役割を持つことが明らかにされており、LSにおいてERβは不安を介して攻撃行動の制御に関わる可能性がある。しかしながら、詳細な機能は依然不明である。そこで本研究は、LSのERαとERβが、攻撃行動の表出に果たす機能の解明を目的とする。仮説として、ERαは直接攻撃行動を促進する一方で、ERβは不安の抑制を介して間接的に攻撃行動を抑制していると予想される。 2021年度に遂行した実験1では、雄マウスのLSにおいてERαとβの発現阻害を行い、攻撃行動及び不安の表出に及ぼす影響を検討した。その結果、LSのERβの発現阻害に伴い、社会的場面における不安が亢進することを明らかにした。この結果は、LSのERβが社会的場面における個体の不安レベルを抑制的に制御する可能性を示唆するものである。さらに、実験2において、LSのERαとERβがどのような神経回路上に発現するかについて、神経細胞種特異的な神経トレーサーの導入により検討する。それにより、LSのERαとERβが異なる神経投射回路を通じて、行動の制御に異なる機能を果す可能性を明らかにした。 これらの結果を受け2022年度は、ERα及びERβ陽性細胞の神経活動操作による攻撃行動表出への影響の検討を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画の実験1と実験2まで終了している。2022年度には、実験3として、ERα及びERβ陽性細胞の神経活動操作による攻撃行動表出への影響の検討を予定していた。しかしながら、本研究で使用するERβ-creマウスにおいて、攻撃行動の安定した表出がみられないことが、検討実験の段階で明らかになった。実験3では、DREADDシステムによるERβ陽性細胞特異的な神経活動操作を攻撃行動実験中に行うことで、攻撃行動表出がどのように変化するかを検討する予定であった。そのため、神経活動操作を行わない段階においてベースラインとなる攻撃行動の表出が必須であった。これらのことから、実験3を行うにあたり、攻撃行動テストの方法の見直しが必要になったため、実験開始が遅れている。しかしながら、実験全体の進捗としてはおおむね順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、現在条件検討を行っている実験3の攻撃行動テストを実施する。実験3では、雄マウスのLSにDREADD法による神経活動操作用のウイルスベクターを導入し、ERαまたはERβ陽性細胞の神経活動操作が攻撃行動の表出に与える影響を検討する。実験動物には、ERα-creマウスまたはERβ-creマウスの雄を用いる。まず、10週齢以上のマウスのLSにcre依存的に発現するDREADD法による神経活動操作用のウイルスベクター(hSyn-DIO-hM4Di-mCherryまたはhSyn-DIO-hM3DqmCherry)を導入する。回復期の後、15分間の攻撃行動テストを3日間行う。条件検討において、当初予定していた居住者侵入者テストや、ニュートラルアリーナテストなどの複数の行動テストを比較し、攻撃行動の安定した表出がみられる行動テストを採用する。テストのday2に神経活動操作を行い、神経活動操作を行わないday1・day3との間で結果を比較検討する。その後、マウスを灌流固定して脳組織を採取し薄切冠状切片を作成する。蛍光免疫組織化学により、LSにおけるウイルスベクター発現を赤色蛍光タンパク質で可視化し、ウイルスベクターの感染範囲を確認する。これらの検討を10月ごろまでに終了し、その後それらの結果について学術論文にまとめる。
|