研究課題/領域番号 |
21J20226
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
李 若詩 筑波大学, 人間総合科学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 体温リズム制御 / Qニューロン / DMH / 神経回路 |
研究実績の概要 |
体温リズム制御に関わる神経核の特定を目的とし、体温制御に関わる前腹側脳室周囲核(AVPe)のQRFP産生ニューロン(Qニューロン)の阻害実験を行った。Qrfp-iCreノックイン(KI)マウスの腹腔内に小型体温計測装置を埋め込み、正常時の体温を計測した。その後、AVPeにCre依存性に発現する破傷風毒素軽鎖(TeNTLC)をコードしたアデノ随伴ウイルス(AAV)を導入し、再度体温を計測した。その結果、ウイルス導入前と比べ、体温リズムの振幅の減弱が認められた。 体温リズム制御に関わる神経回路特定を目的とし、概日時計中枢の視交叉上核(SCN)よりQニューロンに至る神経回路の探索を行った。視床下部室傍核(PVN)がSCNからQニューロンへの中継点の最有力候補とする仮説を検証した。野生型マウスのAVPeに緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードした改変型狂犬病ウイルスを導入し、PVNに赤色蛍光タンパク質mCherryと狂犬病ウイルスの感染・増幅に必要なTVA、RGをコードしたAAVを導入した。その後、ウイルスの発現を確認したところ、PVNにmCherryとGFPの発現は確認されたが、SCNにGFPの発現は確認されなかったため、PVNが中継点である可能性は低いと考えた。次候補の視索前野(POA)も同様の手法で調べたが、同様な結果が得られた。 トレーシング実験でSCNよりQニューロンへ至る経路が同定されなかったため、他経路が体温リズム制御に関わっている可能性も考慮した。視床下部背内側核(DMH)も体温調節に関わっており、SCNからの直接的な投射も受けているため、体温リズム制御との関わりを検討した。野生型マウスを用い、上記のQニューロン阻害実験と同じ手法でDMHを阻害した。その結果、Qニューロン抑制時と同様、体温リズムの振幅の減弱が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記した通り、Qニューロンが体温リズム制御に関わる神経核の可能性を検討するため、Qニューロンを阻害する実験を行った。その結果、Qニューロンの阻害時に体温リズムが消失することを確かめることができた。また、SCNよりQニューロンに至る経路の探索を行ったが、投射経路は同定できなかった。しかし、Qニューロン以外の神経核も関わっている可能性を検討するきっかけとなり、結果、有力候補のDMHの阻害時にも体温リズムが消失することを見出した。今後QニューロンとDMH両方面より体温リズム制御機構に関して検討する根拠となった。
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今後の研究の推進方策 |
SCNからDMHへの直接的な投射は既に報告されているため、この投射経路と体温制御の関わりを検討する。野生型マウスのSCNに光受容体のメラノプシン (OPN4) をコードしたAAVを導入し、DMHに光ファイバーを留置する。暗期にレーザー光を1時間照射することでSCNからDMHへ投射している神経軸索を刺激し、これによる体温の変化を観察する。 その後、SCN から DMH への神経投射が体温リズム制御に重要かを調べる予定である。Creをコードした経シナプス感染性のAAVをSCNに導入し、DMHにCre依存性に発現するTeNTLCをコードしたAAVを導入し、SCNより神経投射を受けているDMHの神経細胞を長期的に抑制する。ウイルス導入前後の体温リズムの変化を調べる。 また、DMH は視索前野(POA)より投射をうけ、淡蒼縫線核(RPa)に投射し、この神経回路が体温制御に関わっていることはすでに知られている。そのため、SCN からDMH、DMH から RPa への投射が体温リズム制御に関わる神経回路である可能性を検証する。研究実績に記したのと同様のトレーシング手法を用いて調べる予定である。
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