体温リズムを制御する神経回路の解明に携わった。哺乳類の中枢時計である視交叉上核(SCN)が体温制御に関わる視床下部背内側核(DMH)へ投射し、その神経回路が体温リズム形成に関わるという作業仮説のもと研究を進めた。DMHに経シナプス性逆行性ベクターである改変型狂犬病ウイルスを導入し、DMHに投射している領域にSCNが存在するかを確認した。その結果、SCNに陽性細胞が確認され、SCN-DMHの神経回路の存在が確認された。また、DMHに投射しているSCN細胞が体温リズム形成に関わるかを調べた。野生型マウスの腹腔内に小型体温測定装置を埋め込み、正常時の体温リズムを計測した。その後、DMHに逆行性にCreリコンビナーゼを発現させる犬型アデノウイルス(CAV2-Cre)を発現させ、SCNにCre依存性に細胞死を誘導するCaspase3を発現させた。この操作後の体温リズムを計測した結果、体温リズムの振幅が減弱するのが認められた。そのため、DMHに投射しているSCN神経細胞は体温リズム形成に重要であることが分かった。また、SCN-DMHの神経投射を直接操作するため、光遺伝学を用いた操作を行った。SCNに光受容体であるhOPN4dcを発現させ、DMHに光ファイバーを留置した。マウスの腹腔内に小型体温測定装置を埋め込み、体温を測定した。hOPN4は青色光で興奮するため、ファイバーにレーザーにより青色光を当てたところ、レーザーを当てている期間のみ体温リズムの振幅が減弱するのが認められた。そのため、SCN-DMHの神経投射は体温リズムに重要だと思われた。
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