本年度は、令和4年度に導出した実効粘度を用いた非Newton流体の気泡流を記述する基礎方程式(実効二流体モデルおよび三相混合体モデル)に対して、線形分散関係に基づく理論解析(線形解析)を行うことで、発泡マグマ中を伝播するP波の基本的な性質を明らかにした。さらに、特異摂動法を用いて、基礎方程式からP波波形の時間発展を記述するための非線形波動方程式を導出した。得られた主な結果を以下に示す:[1] 実効二流体モデルと三相混合体モデルは、共に線形解析において同様の傾向を示した一方で、非線形波動方程式における波形の気泡体積分率に対する減衰特性は、両モデルで異なる傾向を示した。これは、特異摂動法によって、実効二流体モデルにおける気泡の影響が過小評価されたためであると考えられる。[2] P波の分散性は、液相粘性と気泡の体積弾性率の比が気泡の固有振動数よりも大きい場合に高周波の圧力波に対して発現し、気泡半径が大きくメルト粘度が小さいほど分散性は強くなった。[3] 線形解析より、気泡体積分率とメルト粘度は、それぞれP波の伝播速度と減衰特性に強い影響を及ぼすことが判明した。[4] 三相混合体モデルに関して、非線形波動方程式の減衰特性は線形解析の結果を正しく反映した。[5] 導出した非線形波動方程式を数値解析し、地下約4kmにおける発泡マグマ中を伝播するP波波形の時間変化を可視化した。 近年、地上での観測地震波形を利用したマグマの発泡度や粘度推定が注目されており、以上の成果は、当該推定システムの核としての有用性が期待できる。本研究成果は、日本火山学会2023年度秋季大会および国際学会「21st International Conference of Numerical Analysis and Applied Mathematics」にて公表済みであり、現在、査読付国際学術雑誌へ投稿中である。
|