研究課題/領域番号 |
21J20404
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
青貫 翔 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 薄膜太陽電池 / シリサイド半導体 / バリウムシリサイド |
研究実績の概要 |
本研究では,n型BaSi2膜の高品質化,および太陽電池応用を行った。BaSi2のn型ドーパントであるPについて,拡散係数の導出,およびイオン注入を用いた太陽電池応用に着手した。これまでBaSi2太陽電池に用いられていたSbと比較して2桁小さい拡散係数を示し,イオン注入を用いたBaSi2太陽電池の初動作を実証した。この成果は,あらゆる手法により作製したBaSi2膜に応用可能であり,新なBaSi2太陽電池の設計方法を提示した。 同様に,Bを用いたイオン注入によりBaSi2太陽電池を作製し,スパッタ法により作製したBaSi2膜へと応用した。これまでスパッタ法を用いた同時供給により作製したB-doped BaSi2膜はp型伝導を示さなかったが,Bのイオン注入により安定したp型伝導を初めて示した。さらに,p型BaSi2/n型Si接合型太陽電池の初実証に結実した。 光学特性の向上においては,これまで高い光学特性を示してきたSi-rich条件で堆積したBaSi2膜への水素供給を行った。化学量論比の条件で堆積したBaSi2膜への最適な水素供給時間に比べ,短い供給時間で光学特性が向上した原因について,実験結果と理論計算の双方より考察を行い,その原理を解明した。第一原理計算はベラルーシ大学のMigas先生との共同研究により遂行した。 上記の結果をもとに,n型BaSi2膜の太陽電池応用に向けて,デルフト工科大学との共同研究により光学シミュレーションソフトを用いた太陽電池設計を行った。太陽電池の基本構造はpn接合であるため,n型BaSi2光吸収層にはp型BaSi2層のキャリア輸送層が候補になる。しかし,p型BaSi2は光吸収係数が大きく,n型BaSi2膜での光電流密度が制限される。そこで,ワイドバンドギャップ半導体に着目し,最適な構造を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,民生用の太陽電池で30%超の変換効率を実現するため,資源が豊富なBaとSiからなるシリサイド半導体BaSi2をトップセルとしたGeベースタンデム型 太陽電池の実現を目的としている。昨年度までの研究では,第一原理計算によりBaSi2のAsとHによる伝導型反転,および,分光感度特性向上を考察し,As-doped n-BaSi2膜のさらなる高品質化を実現した。 本年度は,イオン注入を用いたBaSi2太陽電池の作製,水素供給によるSi-rich BaSi2膜の光学特性向上,n型BaSi2光吸収層を用いた太陽電池設計を目的とした。 PはBaSi2のn型ドーパントであるが,Pの拡散係数はこれまで評価されていない。そこで,本研究では,Pのイオン注入法によりPの拡散係数を評価した。既存のn型ドーパントであるSbより2桁小さい拡散係数を示したことから,Pを用いた急峻なpn接合の形成が期待される。さらに,Bのイオン注入法によるBaSi2太陽電池の初動作を実証し,新たなBaSi2太陽電池の作製手法を確立した。 さらに,コロナ禍において実施できていなかった海外での共同研究を実施でき,高効率なBaSi2太陽電池の実現に向けて大きな進捗を生むことができた。デルフト工科大学では,光学シミュレーションによりn型BaSi2光吸収層を用いた太陽電池を設計し,今後の研究方針を確立できた。来年度は設計した太陽電池を作製し,変換効率25%を超えるBaSi2太陽電池の実現を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はデルフト工科大学との共同研究により設計したホール輸送層(HTL)/n型BaSi2光吸収層の太陽電池を作製し,BaSi2太陽電池の高効率動作を目的としている。デルフト工科大学では,HTLであるMoO3とn-Siを接合した太陽電池において,界面制御により変換効率23%を達成している。本手法を踏襲し,HTL/BaSi2太陽電池の界面制御を行う。さらに,BaSi2太陽電池に適したHTLを模索する。これまでにHTLの機能が確認されているWO3, V2O5, Cu2O, NiOの成膜を行う。フォトルミネッセンス等の欠陥評価を用いて界面評価を行い,最適な成膜条件を確立する。
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