海洋表層で有機物粒子の凝集により形成される大型粒子(凝集体)は、深層へと沈降することで炭素隔離に寄与している。粒子の沈降速度はサイズによって大きく変動するため、崩壊による凝集体の小型化は炭素隔離効率に大きく影響を及ぼす。海洋の流れの中で維持される凝集体のサイズは凝集体強度によって定まるが、凝集体強度は定量化されておらず海洋物質循環の認識に崩壊過程が導入されていない。植物プランクトンやバクテリアなどの生物は粘着性物質を放出しており、粒子間接着を強固にすることで凝集体強度を高めると考えられている。一方でバクテリアは、凝集体中の有機物を分解するため崩壊への寄与も示唆されている。 本研究では自然プランクトン群集を用いた実験によって、栄養塩枯渇時に海洋凝集体の強度が大きく高まることを明らかとした(~289±64 nN)。これは、人工海水に懸濁させた粘土粒子(モンモリロナイト: 57±20 nN)と比べ大幅に高い値であり、水処理における活性汚泥等と同程度である。活性汚泥の凝集体形成過程には生物による細胞外多糖物質の放出が貢献している。バクテリア等が放出する細胞外多糖による凝集の促進は海洋の凝集体についても示唆されており、本研究では栄養塩枯渇時にバクテリアが増殖し、これに伴い凝集体強度が増加した。このことから本研究で得られた高い粒子間接着力も生物由来の糖質が関与したものと考えられた。 本年度は、栄養塩枯渇時の高い凝集体強度が植物プランクトンによるものか、バクテリアによるものかを評価することを試みた。自然海水にグルコースを添加し培養したバクテリアをモンモリロナイト懸濁液に添加することで凝集体強度へのバクテリアの影響を確かめた。その結果、バクテリア培養ろ液に分散させたモンモリロナイト凝集体の強度増が確認され、海洋粒子の凝集体形成に対して、バクテリアが強度を高めることが明らかとなった。
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