研究課題/領域番号 |
21J20478
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
秦 俊陽 筑波大学, 人間総合科学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ビタミンB1誘導体 / 自発運動 / ドーパミン / ノルアドレナリン / 前頭前皮質 / 青斑核 |
研究実績の概要 |
運動・身体活動は、その心身への有益性から健康長寿社会の実現に向けて注目されているものの、それらを日々継続することは簡単ではない。よって、運動・身体活動の内発的な実施を促進する方略開発とその要因解明は重要である。所属研究室はラットへのビタミンB1誘導体(フルスルチアミン:TTFD)投与が、内側前頭前皮質(mPFC)におけるドーパミン放出増加を介して自発運動を促進することを明らかとし(Saiki et al., 2018)、活動意欲向上剤として社会提案している(特許6420797)。本研究は、TTFDが高める自発運動の脳内神経機構の更なる解明および、TTFD誘発性自発運動の脳機能に対する影響を明らかにすることを目的とした。 採用後から初年度にかけての検証により、TTFD投与は各種モノアミン神経核である腹側被蓋野(VTA)、青斑核(LC)、背側縫線核(DRN)を活性させること(第76回日本体力医学会発表)、中でも特にLC-mPFCカテコラミン系の関与が想定されることを蛍光免疫組織化学染色および逆行性トレーサーにより突き止めた(第77回日本体力医学会・NEURO2022発表)。採用2年目は、LCの神経活動を薬理学的に阻害した際にTTFDのドーパミン放出増加・自発運動促進効果が減弱するかを検証した。その結果、TTFD投与の30分前にクロニジン塩酸塩(α2アドレナリン受容体作動薬であり、LCの活動を抑制する)を投与することで、TTFDによるドーパミン放出増加・自発運動促進効果が共に減弱することが明らかとなった(第5回スポーツニューロサイエンス研究会発表)。このことから、TTFD投与によるドーパミン放出増加・自発運動促進効果を担う神経としてLCの関与が強く示唆された。現在は電気生理学手法を用いた脳波測定・神経活動評価に取り組んでおり、解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採用後から初年度にかけては、TTFD投与で活性化するモノアミン神経核の同定および、それらがmPFCへ神経入力しているかを蛍光免疫組織化学染色法により検証し、その結果LC-mPFCカテコラミン系の関与を突き止める結果を得ることができた。この結果を受けて採用2年目では、LCの神経活動を薬理学的に阻害した際にTTFDのドーパミン放出増加・自発運動促進効果が減弱するかを検証した。本実験では、α2アドレナリン受容体作動薬であり、自己受容体として作用してLCの活動を抑制できるクロニジン塩酸塩を使用した。結果、TTFDによるドーパミン放出増加・自発運動促進効果が共に減弱することが明らかとなり、TTFD誘発性自発運動の神経機構として、LC-mPFCカテコラミン系の関与が強く示唆された。申請時にはVTAの関与を想定した仮説を設けており、現状得られている成果は異なるものの、「TTFDが高める自発運動の脳内神経機構の更なる解明」という研究目的の達成に向けては一定の成果が得られていることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、TTFD誘発性の自発運動にはLC-mPFCカテコラミン系の関与が示唆されている。さらに2022年度は、脳波や局所神経細胞の電位変化を捉え、周波数解析することで睡眠-覚醒サイクルまたは神経活動の質的変化やその同調性を評価する電気生理学手法を用い、TTFD投与後の脳波・mPFC・LCの神経活動への影響を測定した。現在、少数の予備解析の結果から、TTFDの投与は脳波のうちデルタ波を減少させる(=覚醒を促す)可能性が示唆されている一方、mPFCおよびLC局所脳部位における神経活動の変化は未だ解析中であり、2023年度においては本解析をまず推進する。 この他、LCは元来ノルアドレナリン作動性神経とされていることから、ドーパミン受容体拮抗薬・アドレナリン受容体拮抗薬をそれぞれ用いることで、TTFD効果がノルアドレナリンによっても媒介され得るかを検証する。mPFCに局所投与用のガイドカニューレを留置し、回復期間・実験環境への順化期間をそれぞれ設ける。実験の際は、溶媒・D1受容体拮抗薬(SCH23390)・α1受容体拮抗薬(Prazosin)のいずれかをmPFCへ局所投与し、その30分後にTTFDを腹腔投与することで、TTFD誘発性自発運動を媒介する受容体を明らかにする。なおその際、拮抗薬の濃度依存性も検証する。 これらの脳内神経機構の解明と並行して行動試験を実施し、脳機能への影響を明らかにすることを目指す。特に前頭皮質が司る機能として、強制水泳を用いて抗うつ効果を、Y字迷路を用いて認知機能を評価していく。こうして得られた研究成果をもとに原著論文の執筆に取り掛かる。
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