研究課題
所属研究室はラットへのビタミンB1誘導体(フルスルチアミン:TTFD)投与が、自発的な運動量を増加させることを明らかとし、その背景に内側前頭前皮質(mPFC)におけるドーパミン放出増加が関与することを報告している(Saiki et al., 2018)。この神経機構として、令和3年度および令和4年度の検討から、青斑核(LC)-mPFCカテコラミン系の関与が明らかとしてきたが、LC由来のノルアドレナリンの関与や、ドーパミン放出増加による前頭皮質機能への影響などは未検討であった。そこで令和5年度では、これらを明らかにするため、①TTFD誘発性身体活動におけるドーパミン・ノルアドレナリンの関与をそれぞれ検証する。②前頭皮質の機能への影響を行動試験により検討する。の2つの研究を実施した。まず実験①では、各種受容体の拮抗薬をmPFCに局所投与することでmPFCにおけるドーパミン・ノルアドレナリンの関与を検証した。その結果、D1受容体拮抗薬のほか、α1受容体拮抗薬でもTTFDによる自発行動誘発効果が一部減弱する可能性が示唆された。このことから、TTFDはドーパミンのみならず、ノルアドレナリンも介して自発行動を調節しているかもしれない。続いて実験②では、mPFCが担う機能として知られる認知機能や抗うつ機能への効果を検証するため、恐怖条件付け学習、Y字迷路、強制水泳試験を実施した。mPFCでドーパミン放出が増加することによるこれらの機能向上を期待したが、現在までに実施した試験の条件では、有意な差は確認できていない。今後、試験の条件(恐怖条件づけ学習:ショックの強度・回数・試験の時間、Y字迷路:部屋の明るさ、強制水泳試験:試験時間など)やTTFD投与のタイミングなどを検討していくことで、mPFC機能への影響を慎重に明らかにしていく。
秦俊陽: 第 5 回スポーツニューロサイエンス研究会 若手研究発表 最優秀賞 受賞報告, 筑波大学体育系紀要, 47, p36, 2024年3月.
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