トマト細胞質雄性不稔性(Cytoplasmic Male Sterility; CMS)の原因遺伝子orf137による雄性不稔化メカニズムの解明に向けて、複数の花粉発達ステージのトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、orf137はミトコンドリアから核に向けてカルシウムシグナル伝達を誘導していることが示唆された。このシグナル伝達を介して花粉発芽に強く関連する核遺伝子群の発現変動を誘導し、雄性不稔性を引き起こすことが予想される。 また、トマトCMS系統の稔性回復を誘導できる稔性回復(Restorer of Fertility; RF)遺伝子はトマト近縁野生種が保有している。RF遺伝子候補として9 個の遺伝子を特定していたが、遺伝子検証の結果、いずれの候補遺伝子もCMS系統の稔性回復を誘導しないことが判明し、近縁野生種が保有するRF遺伝子の特定には至らなかった。一方で、突然変異育種により人工的に新規のトマトRF系統を13系統開発することに成功した。最も強い稔性回復を誘導できるトマトRF系統およびトマトCMS系統を用いてF1品種を作出した結果、F1品種における果実収量は従来のF1品種と同等であることがわかり、今回開発したRF系統の実用性を示すことができた。さらに、遺伝子同定の手法であるBulked Segregant Analysisを用いることで、人工的に開発したトマトRF系統において5つのRF遺伝子を特定した。CMS系統において、ゲノム編集技術を用いて5つの遺伝子をそれぞれノックアウトした結果、いずれの変異体においても稔性回復が誘導された。したがって、特定した5つの遺伝子はいずれもトマトCMS系統に対するRF遺伝子であると判断できる。 以上の結果は、トマトF1採種の効率化に貢献する成果であるともに、CMS原因遺伝子による雄性不稔化メカニズムの解明にも貢献する成果となる。
|