本研究の目的は、1.改良Chubanov法を対称錐計画問題へと拡張、2.提案手法の性能を数値実験により確認、3.他のアルゴリズムと組み合わせて活用、という3つの段階で提案手法の有用性を検討することである。
令和3年度は、提案手法の理論構築及び実装を行い、上記の1と2の目標を達成した。令和4年度は、上記の2と3の目標に向けての研究活動を行い、提案手法は商用ソフトよりも計算機で上手く解けないとされてきた悪状態の問題に対し、実行時間では劣るものの解の精度で勝ること、さらに、提案手法を内点法(多くのソフトで実装されている対称錐計画問題に対する解法)の後処理として用いることで、効率的に精度の良い解が得られる可能性が高いことを確認した。これらの結果を受け、令和5年度は、内点法に対する提案手法を用いた後処理アルゴリズムの理論構築と実装を行い、SDPLIBと呼ばれるベンチマーク問題集を用いて、その性能を確かめる実験を行った。実験結果から、提案する後処理アルゴリズムを用いることで、従来のソフトだけでは求めることが困難な精度の良い解が安定的に得られることを確認した。また、精度の良い解を求められる手法としての観点から、本研究が安定した面的縮小法の実装に貢献できる可能性を示し、小規模問題に対する予備的な数値実験から、その可能性を確認した。面的縮小法とは、計算機で解きにくい悪状態の錐線形計画問題を計算機で解きやすい問題へと等価に変換する手法であり、微小な数値誤差に非常に弱いことが知られている。
提案した後処理アルゴリズムの理論、その数値的性能及び安定した面的縮小法の実装に役立つ可能性を示した計算機実験の結果をまとめた論文は現在投稿中である。また、作成した後処理アルゴリズムのプログラムは一般に公開している。
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