研究課題/領域番号 |
21J22912
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
茅場 聡子 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 大気汚染 / PM2.5 / PAH / PAHキノン / 領域気象化学モデル / 酸化ストレス / 電気自動車 / ブレーキ粉塵 |
研究実績の概要 |
今年度は令和3年度に引き続き、将来に渡るエネルギーや自動車の変遷が日本の大気汚染物質濃度に与える影響を大気モデルで評価し、結果を学術誌に二件投稿した(報告書作成時の現在において、いずれも査読中)。うち一本では、PM2.5の中でも呼吸器系の炎症誘導能が高い3種類の金属濃度(PM2.5-Fe,-Cu,-Zn)及びエアロゾル酸性度(金属の可溶化を促進し、炎症誘導能の上昇に寄与する)に対し、日本における2050年までの再生可能エネルギー普及・乗用車の電動化・軽量化が及ぼす影響を気象庁気象化学モデルNHM-Chemで評価した。その結果、電気自動車の回生ブレーキシステムによる高いブレーキ摩耗抑制効果により、将来的な乗用車の電動化と軽量化が特にFeとCuの濃度削減に効果的であることが示唆された。更に、ガス状汚染物質(SOx, NOx,NH3)の減少はエアロゾル酸性度を若干変化させたが、金属の水溶性区画の変化には殆ど影響を及ぼさなかったことから、大気中水溶性金属濃度の低減には金属の一次排出量の削減がより重要であることが示唆された。本結果は令和5年4月に二件の国際学会で発表予定である。 また、本研究では呼吸器系炎症に有害でありながら、現状の大気モデルではその動態再現が達成されていないPAHキノンのモデル開発に取り組んでいる。今年度はその第一ステップとして、PAH(US EPA指定16種及び6PPDの計17種)のエミッションインベントリ(東アジア及び日本域)を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画であった前年度成果の学術誌投稿と、PAHのエミッションインベントリ構築を完了させることができたため、概ね順調に進展していると考える。PAH及びPAHキノンの3次元モデルの開発には着手できなかったものの、一方で、令和3年度より継続中の問題である、モデルのPM2.5-NO3-濃度過大評価に対し更なる改善対応ができた。具体的には、海塩粒子とのクロリンロスによるNaNO3過大の可能性に着目し、モデルにおける海塩粒子(NaCl)の発生過程の式と粒径分布の前提を修正した。その結果、NaNO3については過大評価を抑制でき、モデル再現性を向上することができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、前期にPAH及びPAHキノンの3次元大気モデル開発と検証、後期に肺胞内における0次元ROS産生モデルのプロトタイプを完成させることを目標とする。前期のPAH・PAHキノンモデル開発では、まず、今年度に開発したPAH(US EPA指定16種及び6PPDの計17種)のエミッションフラックスを気象庁気象化学モデルNHM-Chemに入力する。①有機物への吸収、黒色炭素への吸着を考慮したPAHのガス・粒子配分、②O3とOHラジカルによるPAHからPAHキノンへの酸化、そして③黄砂等粒子表面上での不均一反応によるPAHキノンの二次生成を考慮し、PAHキノンの大気中動態を再現する。東アジア及び日本領域でPAHキノンの濃度をシミュレーションし、その結果を京都における観測結果(京都大学の共同研究者の方よりご提供)と比較検証し、モデルの不確実幅を考察する。これらの結果を学会で発表し、学術誌に投稿する。後期の肺胞モデル開発では、まず先行研究(Lakey et al., Sci. Rep., 2016)で報告されているROS産生モデルの再現開発を行い、加えて、化学成分間相互作用(金属と有機物の錯体形成によるROS産生効率向上あるいは低下)を新たに考慮することを目指す。
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