冬眠様状態QIHを誘導するQニューロンは、視床下部前方およびその近傍に加え、視床下部後方、中脳、橋、延髄といった様々な脳領域に広くその軸索を投射し、その中でも主に視床下部背内側核DMHという神経核がQIH誘導に最重要であることが現時点で明らかになっている。またQIHは複合的な表現型であり、Qニューロンは体温だけでなく自律神経系や身体の動きを制御する能力を有していると考えられる。しかし、Qニューロンがそれぞれをどのように調節しているのか明らかでない。例えば、Qニューロンはその細胞体ごとに投射する神経核を使い分けて各々の生理応答を調節しているかどうか不明である。そこで本研究では、DMHに軸索投射するQニューロンのみを標識し、それを操作することにより体温低下が誘導されるか検証する実験を遂行した。 Qrfp-iCreマウス系統の視床下部背内側核DMHに、Cre依存性にFlp酵素を発現させる逆行性AAVを局所微量投与した。さらにQニューロンの細胞体が位置する神経核avPeに、Cre酵素およびFlp酵素の両者依存的にチャネルロドプシン2(ChR2)を発現させるAAV(AAV-Con/Fon-ChR2)を局所投与した。そのマウス群のavPeに光ファイバーを留置しQニューロンを青色光で刺激した結果、通常のQIHと同様に深く長い低体温が誘導された。またQ(avPe→DMH)ニューロンの細胞体の数および軸索投射先を調べたところ、通常のQニューロンでの結果と同様な傾向が見出された。これらの結果は、Qニューロンの軸索投射は細胞体ごとに分別されていないこと、すなわち1つの細胞体の軸索が分枝して各種神経核に投射していることが示唆した。またQIH誘導においては、Q(avPe→DMH)ニューロンの興奮のみで十分な表現型が観られたことから、Qニューロンの標的としてのDMHの重要性が再確認された結果となった。
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