研究課題/領域番号 |
22J10256
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高橋 幹弥 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | ブラックホール / 一般相対性理論 / 輻射輸送 / 降着円盤 / 数値計算 |
研究実績の概要 |
新しい一般相対論的輻射輸送コード:CARTOONを開発した。このコードは光線追跡法に基づいて、ブラックホール時空における輻射場の時間発展を近似解法を用いることなく直接解くコードである。先行研究では達成できていなかった、一般相対論的輻射輸送方程式を単に差分化するだけでは達成できない光子数の保存と等方弾性散乱前後での輻射エネルギーの保存を保証する初めてのアルゴリズムを考案、実装したことが本研究の特長である。また、ブラックホール近傍での輻射場の時間発展と無矛盾な観測量の時間変動まで計算可能な点も特長である。さらに、一般相対論的輻射輸送コード:CARTOONを用いて、部分的に光学的に厚く、時間変動を考慮した簡易的なブラックホール降着流を想定し、ブラックホールスピンを推定することを目的として観測量の時間変動計算を実施した。その結果、先行研究で示されていた観測イメージの特徴的な構造が時間変動することを発見した。また、観測イメージの一部が遅延して観測者に到達し、その遅延時間がブラックホールスピンに依存することを発見した。この結果は、新たに降着流の時間変動まで考慮し、世界的に見ても例が少ない降着流の時間変動と無矛盾に観測量の時間変動を計算することで初めて得られた結果であり、より強固なブラックホールスピンの推定方法を提案するものである。当該年度では、2022年12月に一般相対論的輻射輸送コード:CARTOONの開発に関する査読論文がMNRAS誌に受理された。CARTOONを用いた光学的に厚い降着流を想定した観測量の時間変動計算に関しても、近日中に論文を執筆する予定である。また、当該年度では計6件(うち国際研究会2件、国内研究会4件)の研究会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ブラックホール周囲の流体場の時間変動と同時に一般相対論的輻射輸送方程式を解き、ブラックホール周囲の輻射場および観測量の時間変動を無矛盾に計算するものである。このための第一歩として、本年度は共同研究者による先行研究を発展させた一般相対論的輻射輸送計算コード:CARTOONの開発を完了し、これに関する査読論文が受理された。その後、開発に成功した一般相対論的輻射輸送計算コード:CARTOONを実問題に適用して、簡易的な時間変動を考慮した流体場と無矛盾に観測量の時間変動計算を実施した。これまで例が少なかった流体場の時間変動と無矛盾な観測量の時間変動計算に成功したことにより、観測イメージの一部(光子リング)が遅延して観測者に到達することや、観測イメージの構造の時間変動などから、ブラックホールスピンを観測的に推定できる可能性を提案した。これに関してはまもなく査読論文の執筆を開始する予定である。以上のように、本研究の遂行には必須であった一般相対論的輻射輸送計算コード:CARTOONの開発に成功し、査読論文が受理されたことと、CARTOONを実問題に適用した計算についても最終段階まで進んでいることから、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の後半に実施していた、流体場の時間変動と無矛盾な観測量の時間変動計算によるブラックホールスピンの推定可能性に関する研究を引き続き行う予定である。まずは、現在行なっている簡易的な流体場を用いた計算を査読論文としてまとめ、本年度前半までの投稿を目指す。 当初の研究計画では、現在実施している計算の後には、非弾性・非等方散乱である逆コンプトン散乱を実装し、多波長観測量が計算できるように一般相対論的輻射輸送計算コード:CARTOONを改良する予定であった。しかしながら、研究終了までの残り期間等を鑑み、今後は方策を転換することを検討している。具体的には、現在実施している計算で用いている簡易的な流体場を、一般相対論的磁気流体計算により第一原理的に計算した現実的な流体場に置き換え、より現実の観測結果と比較可能な観測量の時間変動計算を実施する予定である。ここで用いる一般相対論的磁気流体データは共同研究者からの提供を受ける予定である。用いる流体データを読み込むためにコードを改良する以外の改良を行う必要はなく、速やかに遂行できると考えている。現実的な流体場を用いた本計算は、本年度後半までに査読論文を執筆・投稿することを目標とする。これと同時に、これまでの研究成果を博士論文としてまとめる予定である。 また、もしこのような研究方策の転換を行なったとしても、本研究の大目標である「観測との比較によってブラックホールスピンを推定可能な現実的な理論モデルを構築する」という点に向けた研究を実施することに変わりはない。
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