本研究の目的は中途障害者の社会復帰の支援における教育機関の役割を明確化することで、主たる研究活動は、初年度(2022年度):アンケート調査データの統計解析とその成果発表、およびインタビュー調査の実施:最終年度(2023年度):インタビュー調査の分析とその報告論文の作成であった。 日本全国の視覚特別支援学校の在籍者255人のアンケート回答による統計解析では、視覚特別支援学校においてソーシャル・キャピタルが醸成され、そのソーシャル・キャピタルが、中途視覚障害者の社会復帰に不可欠な心的外傷後成長(posttraumatic growth:以下PTG)やコミュニケーションのスキルの形成に、正方向の影響を及ぼしていることが示唆された。PTGについての研究結果は国際誌Education Sciencesに、コミュニケーション・スキルについては「職業リハビリテーション」へ、それぞれ原著論文として発表した。 アンケート調査に引き続いて行ったインタビュー調査では、PTGの実況と、それを促した視覚特別支援学校の要素を調査した。21人からの聞き取り内容を分析した結果、視覚特別支援学校は、学校行事や課外活動、授業などを通じて、通常では出会いにくい視覚障害者同士が出会い、相互に助け合う場として機能し、これにより中途視覚障害者が他者を支援し、他者の役に立つ経験ができる場となっていた。また、視覚特別支援学校は、中途視覚障害者に鍼灸マッサージという職業や、補助具、支援機器との出会いも提供し、進行性という性質を持つ中途視覚障害者に自信を与え、新たな将来の目標を授け、自立した生活の手段を提供する場所としても機能していることが明らかになった。 インタビュー調査に関する論文は、国際誌 British Journal of Visual Impairmentに投稿し、現在審査中となっている。
|