大気汚染物質が雲微物理過程を介して都市域豪雨の盛衰に及ぼす影響について、気象モデルおよび気象化学モデルを用いて調査した。また、気象モデルの雲微物理スキームにおける乱流衝突の効果と、気象化学モデルのCCN活性における有機化合物の効果についてそれぞれ実装した。 まず前年度に引き続き、全ての水カテゴリの数濃度を予報変数とする完全2モーメントバルク法を採用した雲微物理スキームを用いて数値実験を行い、エアロゾル数濃度の変化が雲微物理過程を介して都市域豪雨の盛衰に及ぼす影響について調査し、現在の雲微物理スキームでは雲粒数濃度を過大評価することを確認した。この過大評価が雲水の成長過程に起因している可能性を示し、以上の結果を学術誌に投稿した。 また、雲水の成長過程の1つである自己併合衝突過程において、エアロゾル数濃度が高い場合に乱流に伴う衝突カーネルが大きくなる可能性が複数報告されている。そこで、本研究で使用している雲微物理スキームに対して乱流衝突カーネルを実装し、理想化実験を行った。その結果、乱流散逸率の増大に伴い降水の開始が早まる様子が確認でき、乱流衝突を考慮することで、現状の雲微物理スキームにおける雲水数濃度の過大評価を低減し得ることが示唆された。 さらに、界面活性能を有する有機化合物(本研究ではHULIS)が全有機化合物の質量に占める割合を推定し、HULISがエアロゾルの吸湿成長やCCN活性に及ぼす影響(ケルビン効果)について、気象化学モデルに実装した。その結果、都市域豪雨発生時にHULISがエアロゾルや降水中に効率的に取り込まれ、都市域豪雨をもたらす降水セルの雲生成を促進させる事例を確認した。ただし、前述の通りに雲微物理過程における課題があるため、HULISによる雲生成の促進が地上降水に及ぼす影響について定量的な議論を進めるためには、雲微物理スキームの改良が必要である。
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