研究課題/領域番号 |
22J11120
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
澤田 聖人 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 餌毒の二次利用 / 外来種 / 爬虫類 / 頸腺 / 表現型可塑性 / 島嶼生態系 |
研究実績の概要 |
本年度は、ヤマカガシの活動期である春と秋にそれぞれ1.5カ月間ずつ佐渡島に滞在し、データ収集を行った。それ以外の時期は、学会発表や論文執筆を行った。 昨年度データを用いて、外来ヒキガエルと在来ヤマカガシの潜在的分布域を種分布モデル(Maxent)により推定した。外来ヒキガエルは侵入地点を中心に現在は島南西部のみに分布しており、分布拡大中であることがわかった。また、本外来種の繁殖活動は3月を中心に行われ、森林に囲われた池を繁殖場として利用していることも明らかになった。一方、在来ヤマカガシは島全域に分布しており、特に低標高の水田地帯での分布確率が高かった。上記の外来ヒキガエルの分布と繁殖特性の結果はそれぞれ原著論文として国際誌に受理された。ヤマカガシの分布の結果は国内学会でポスター発表した。 在来ヤマカガシが外来ヒキガエルを毒源として頸腺毒を獲得しているのかについて、化学分析(LC/MS分析)を用いて検証した。その結果、外来ヒキガエル侵入地域に分布するヤマカガシのみから頸腺毒が検出された。さらに、検出された頸腺毒には、外来ヒキガエル種であるアズマヒキガエル由来の毒素が含まれていたことから、上記の仮説を強く支持する結果が得られた。また、ヒキガエル侵入地域と未侵入地域でヤマカガシの対捕食者行動が変化しているのかについても検証した。その結果、前者の地域では頸腺毒に依存した行動が多かった一方、後者の地域では逃避行動が多くなっていることがわかった。上記結果は国際学会と国内学会でそれぞれ1度ずつポスター発表し、国内学会では最優秀賞を受賞した。 ヒキガエル侵入地域と未侵入地域におけるヤマカガシの基本生態情報(体サイズ、食性、雌雄比)のデータ収集をした。それら結果をヤマカガシと生態的ニッチが類似するシマヘビと比較したところ、ヒキガエルの侵入を要因としたヤマカガシの生態変化は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、ヒキガエル侵入地域と未侵入地域のヤマカガシで①頸腺毒の獲得状況、②対捕食者行動、③体サイズ、④行動圏に変化が生じているのかを2年間で検証する予定であった。本年度はヤマカガシの活動期である春と秋にそれぞれ1.5カ月間集中的に長期フィールド調査を行ったことで、その内の3つの項目(④以外)に関わるデータを十分に収集することができた。①については国際誌への投稿準備に入ることが可能な質の高いデータを得ることができた。②については国際学会で発表できるレベルのデータを得ることができた。③については未発表であるが、自然史情報として国際誌に投稿できるレベルの膨大なデータを得ることができたと思われる。④については実施することができなかった。その理由は、ヘビ類のラジオテレメトリによる行動圏調査で必須となるインプラント型発信機の取り付け手法の習得ができていなかった為である。
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今後の研究の推進方策 |
フィールド調査は春にみに実施し、昨年度に引き続き継続的にデータ収集を行う。ラジオテレメトリを用いた行動圏調査の実施は現実的に厳しいため、これまで行っていた標識再捕獲法のデータからおおよその行動圏の推定を行う。また、当初の研究計画にはなかったが、Clayモデルと呼ばれる粘土模型を用いた手法により、ヤマカガシへの捕食圧の推定をヒキガエル侵入地域と未侵入地域においてそれぞれ行う。本手法は視覚的に餌探索を行う鳥類に特に有効であるとされており、粘土で作ったヘビの模型を野外に設置し、数日後の粘土への攻撃痕跡をみることで鳥類からの襲撃頻度を示すことができる。加えて、粘土模型の付近に自動撮影カメラを設置することで、どのような種が攻撃していたのかを知ることができる。今後はヤマカガシとその生態的類似種シマヘビの粘土模型をそれぞれの地域に設置することで、ヒキガエル侵入地域におけるヤマカガシの頸腺毒獲得が捕食圧にどのような影響をもたらしているのかについて明らかにする。 論文については、2023年度中に2本の国際誌への投稿を予定している。1つは、頸腺毒の獲得状況についてで、こちらは既にJournal of Chemical Ecology に向けた投稿準備の最終段階である。もう1つは、ヤマカガシを含む佐渡島におけるヘビ類の分布・活動時期・食性についての自然史的内容の論文を予定している。
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