本研究は、女性アスリートのエネルギー代謝適応における生理的反応および総エネルギー消費量(TEE)の構成要素を睡眠時代謝に着目し、生殖機能と睡眠の質の観点から明らかにすることを目的とした。二重標識水法、ヒューマンカロリメータ、加速度計法、活動記録を組み合わせることで、TEEを安静時代謝、睡眠時代謝、生活活動によるエネルギー消費量、トレーニングによるエネルギー消費量に分類し、評価した。睡眠中はポリソムノグラフィーを装着し、睡眠の質とエネルギー消費量の同時測定を行った。ランナーと非アスリートを対象とし、無月経ランナーは1回、月経を有する対象者は月経周期に応じて2回測定を行った。 身体組成からのエネルギー代謝の推定値に対する実測値の比率から、本研究対象者は月経の有無に関わらず安静時代謝および睡眠時代謝の抑制は生じていないことが明らかとなった。しかしながら、1)ランナーにおいてのみ睡眠時代謝が月経周期(卵胞期<黄体期)で異なり、この差は徐波睡眠のエネルギー消費量に影響を受けている可能性があること、2)月経の有無は徐波睡眠の発現と睡眠中のエネルギー消費量の変動に影響を及ぼす可能性を見出した。また、3)無月経ランナーは走行距離の増加に応じてわずかに安静時代謝が減少することを明らかにした。 本研究は、女性アスリートの生殖機能の違いに伴うエネルギー代謝の変動を、身体の生理機能を最も明瞭に反映すると考えられる睡眠時代謝、そして睡眠関連因子から評価した初めての基礎的研究である。これらのデータは女性アスリートの生理機能に伴う生理学的変化を説明する一助として今後貢献している可能性が考えられる。
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