本研究課題の目的は、ハマキガの産卵時分泌物に含まれるエリシターを同定し、エリシターを用いた寄生蜂ハマキコウラコマユバチの定着によるチャ樹の保護効果を検証することである。昨年度までに、ハマキガ生殖器系に対して網羅的な遺伝子発現解析を行い、エリシターが局在する付属腺でのみ高発現する複数のエリシター候補遺伝子が得られた。また、対象とするハマキガ(チャノコカクモンハマキ)において、RNA干渉法による遺伝子機能阻害が可能であることを明らかにした。本年度は、これらの知見をもとに、エリシターをコードする遺伝子のスクリーニングを行った。まず、得られていた候補遺伝子に対しRNA干渉法による遺伝子機能阻害を行った。次に、それぞれの遺伝子をノックダウンした付属腺が寄生蜂をチャ葉に定着させるエリシター活性を有するかを生物試験によって評価した。調査したほとんどの候補遺伝子の場合、ノックダウンした付属腺を処理したチャ葉上において、ハマキコウラコマユバチは集中的な探索行動を示し、チャ葉上に定着した。しかし、ある一つの候補遺伝子をノックダウンした場合にのみ、ハマキコウラコマユバチは付属腺を処理したチャ葉に反応を示さず、定着しなかった。本遺伝子については、遺伝子発現解析の結果からタンパク質をコードする領域(CDS)の配列が予測された。また、予測されたアミノ酸配列に対しタンパク質の機能予測を行ったところ、serine proteinase familyの一種のホモログが予測された。このことから、本ホモログがエリシター活性に関与していることが明らかとなり、エリシター候補物質をコードする遺伝子を得ることに成功した。
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