本研究では、脱ユビキチン化酵素の基質配列をデグロンと標的タンパク質の間に挿入し、細胞内の脱ユビキチン化酵素の活性により、標的タンパク質からデグロンを切り離すシステムを構築した。令和5年度は、令和4年度に作製したデグロンおよび切断基質配列をc-SrcのN末端にノックインしたHAP1細胞で免疫染色を行い、デグロンから切り離された内在性c-Srcが細胞膜に適切に局在するかを検証しようと試みたが、内在性c-Srcの発現量が低く、感度よく検出することができなかった。そこで、c-SrcのC末端にHAタグを付加して、HeLa細胞に外来的に発現させて、細胞質・細胞膜分画および免疫染色を行なった。その結果、c-Srcが細胞膜に局在することが観察された。本システムが標的タンパク質の機能に影響を与えることなく、その発現量を制御できることが示唆された。また、標的タンパク質KLF4のN末端にデグロンおよび切断基質配列を付加した融合タンパク質を、センダイウイルスベクターを用いてNIH3T3細胞とマウスES細胞に発現させた。両細胞において、KLF4の発現量を制御できることを確認し、本システムがセンダイウイルスベクターに適用可能であることを示した。さらに、近接ビオチン標識法を用いて、本基質配列を認識切断する細胞内の脱ユビキチン化酵素の探索を試みた。近位依存性ビオチン化酵素TurboIDのN末端にデグロンおよび切断基質配列を付加した融合タンパク質を、レトロウイルスベクターを用いてNIH3T3細胞に発現させた。質量分析を用いた網羅的な解析の結果、化合物添加時に、12種類の脱ユビキチン化酵素のビオチン化レベルの上昇が見られ、それらの脱ユビキチン化酵素が本基質配列を認識切断することが示唆された。本システムは、基礎生物学の実験ツールとして幅広く利用可能であり、遺伝子・細胞治療などの医療分野への応用も期待される。
|