研究実績の概要 |
本研究では、無意識下で価値情報を処理する脳領域を調べるため、視覚マスキングを利用した行動課題を開発し、価値に反応することが知られている眼窩前頭皮質、扁桃体、ドーパミンニューロンの神経活動を記録した。本研究では、サルに古典的条件づけと弁別課題を組み合わせた行動課題をおこなわせた。この行動課題では、条件刺激(CS)としてランドルト環のようなリング状の視覚刺激を短時間呈示し、CSに欠けがあったかどうかをサルに弁別させた。CSの欠けの方向が液体報酬(US)の量を表しており、欠けが無い場合はランダムな量の液体報酬(US)が与えられた。欠けの知覚を妨害するために、CSの呈示後にマスクを呈示した。欠けの見えやすさはCSの呈示からマスクの呈示までの期間(SOA)によって調整された。この課題において、SOAが長いとき(100, 200 ms)、欠けを正しく弁別できた(知覚試行)が、SOAが短いとき(33, 50 ms)、CSの欠けがあったにも関わらずサルは欠けが無かったと答えた(非知覚試行)。サルの報酬期待を示すリッキングは、知覚試行ではCSがより大きな報酬(すなわちより大きな価値)を示すときに増えたが、非知覚試行ではCSが示す報酬量に関わらず一定だった。この結果から、非知覚試行でサルは価値を知覚していなかったと考えられる。従って、非知覚試行で無意識下の価値情報を処理する神経活動が得られると考えられた。記録した眼窩前頭皮質、扁桃体そしてドーパミンニューロンの3領域において、非知覚試行での価値に対する神経活動(価値情報)は、知覚試行と比べて低下していた。ただ、眼窩前頭皮質の価値情報は失われていた一方で、扁桃体とドーパミンニューロンではCSを知覚していないにもかかわらず価値情報を保っていた。以上の結果から、無意識下では報酬系の限られた領域、特に皮質下領域の神経回路が価値情報を処理していることが示唆される。
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