研究課題/領域番号 |
22J20567
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宮澤 研人 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 分子系統 / 地衣成分 / 藻類 / 環境 / 地衣類 / 新種 / Byssoloma / ワタヘリゴケ属 |
研究実績の概要 |
菌と藻の共生体である地衣類においては、その学名が与えられる共生菌の形質を重視して分類体系が検討されることが多かった。申請者は生葉上地衣類において、これまで地衣類の分類に用いられてきた形態や地衣成分、DNAの塩基配列のみでは解決できない分類学的な問題を数多く見出している。本研究では、生葉上地衣類の新しい分類体系の構築を視野に入れ、「共生藻」を切り口として生葉上地衣類の分類学的再検討を行うことを目的としている。当該年度では、千葉県、茨城県、石川県、沖縄(本島)において生葉上地衣類の調査および採集を行った。それらの調査で得られた約300点の標本と国立科学博物館に所蔵される約250点の標本(東南アジア産標本を含む)の検討を行った。結果として、27属66種を同定し、うちワタヘリゴケ属(Byssoloma) の1種を未記載種であると見出し、新種記載論文を投稿した。さらにうち6種は日本新産種であると断定し、Gyalectidium setiferum Vezda & Serus. (シロヒゲクボミサラゴケ,新称)の1種に関する査読論文を出版した。また、生葉上地衣類の代表的な属の一つであるワタヘリゴケ属では、これまでの基準に従うと Byssoloma leucoblepharum (Nyl.) Vain.とされていた種が分子系統学的に複数のクレードに分かれ、それらが異なる藻類系統とペアとなる傾向を見出した。共生菌と共生藻の関係性をさらに検討していくことで、これまで解決できなった生葉上地衣類の分類学的問題を解決に導くと期待される。さらに、研究は分類学的な研究から生態分野にも発展しており、生葉上地衣類の多様性が人為環境によって影響を受ける傾向を見出した。分類学的な研究を基盤として、生葉上地衣類と環境との関係についてもより深く考察を深めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では千葉県、茨城県、石川県、沖縄県(本島)において生葉上地衣類の採集調査を行った。それらの調査で得られた約300点の標本と国立科学博物館に所蔵される約250点の標本(東南アジア産標本を含む)の検討を行った。結果として、27属66種を同定し、そのうちワタヘリゴケ属 (Byssoloma) の1種を新種として見出し記載論文を投稿中である。また、沖縄本島の生葉上で形態的にはこれまで地衣類として知られていないとみられる分類群を発見し、詳細な形態観察と分子系統解析を行った。その結果、これまで地衣化系統としては知られていないケートチリウム科の Chaetothyrium の1種であることを明らかにした。本種の発見は、地衣類の生葉上への適応進化に関する興味深い知見を与える。さらに、生葉上地衣類の代表的な属の一つであるワタヘリゴケ属では、これまでの分類基準では1種して同定されるもの(Byssoloma leucoblepharum (Nyl.) Vain.)が複数の共生菌のクレードに分かれ、それらが異なる藻類系統とペアになっている傾向を見出した。共生菌と共生藻の関係性をさらに検討していくことで、これまで解決できなった生葉上地衣類の分類学的問題を解決できると考えている。これらの成果を統合して「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も国内外の調査および採集を通じて研究資料となる生葉上地衣類の標本を増やしていく予定である。具体的な調査地として、九州南部、沖縄本島、ミャンマーを予定している。ただ、調査によって得られる標本数は限られてくる。その解決策の一つとして、維管束植物の標本に注目しようと考えている。特に亜熱帯や熱帯地域から採集された維管束植物標本には生葉上地衣類がよく付着している。国内の植物標本庫をめぐり、効率的に国内外の生葉上地衣類の標本検討を行いたい。少なくとも、国立科学博物館の植物標本庫での検討に関しては2023年度開始予定である。それらの調査などで得られたサンプルは、これまで通り、詳細な形態観察や地衣成分の検討、分子系統解析、培養などを通じて分類学的検討を行う。そのなかで得られた新たな知見に関してはこれまで通り、速やかに学会発表や論文発表を通じて報告する。 また分類学的再検討には、種名の基準となるタイプ標本などの分類学的に重要な標本の検討が欠かせない。特にアジア産生葉上地衣類のタイプ標本は欧州の標本庫に保管されている場合が多い。2023年度は欧州4ヶ国計6ヶ所の標本庫を巡り、タイプ標本等の標本検討をおこなう予定である。特に分類学的な問題を抱えるByssoloma leucoblepharum (Nyl.) Vain. については、異タイプ異名のタイプ標本の検討を行い、分類学的な結論が出せるように進めていく。 さらに、生葉上地衣類を森林の環境指標として応用することを目指して、環境と生葉上地衣類の多様性との関係もより科学的なデータを用いて明らかにしていく。特にニッチモデリングに注目しており気温、降水量、植生、地質などを含む環境要因との関係をより詳細に検討していく予定である。
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