研究課題/領域番号 |
22KJ0430
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宮澤 研人 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 新種 / 藻類 / 選択性 / 特殊化 / 菌類 / 多様性 |
研究実績の概要 |
本研究では,地衣類の分類においてこれまで重要視されてこなかった共生藻に着目した分類学的な再検討を行っている。特に進化的に興味深い生葉上地衣類を主な材料としている。当該年度では昨年度に引き続き,国内の広い地域で採集調査を行い、生葉上地衣類および関連の地衣類の標本を約170点得た。さらに共同研究者の採集品を加えた計300点の標本について,詳細な形態観察や地衣成分、DNA塩基配列の解析を行い,文献およびタイプ標本等の参照標本との比較によって同定を行った。なお,検討したタイプ標本は,当該年度に訪問したヨーロッパ4ヶ国の計6の地衣類標本庫における約100標本が含まれる。結果として31属90種が既知種と同定され,さらにRacoleus japonicusとByssoloma orientaleの2新種を国際誌で発表した。そのほかの未記載種や日本新産種に関しては,次年度に論文として投稿予定である。また,これまでの種概念では同種とされるグループが,共生菌の分子系統解析により複数のグループに分かれた。それらのグループが選択する共生藻の系統には、グループごとに傾向がみられ,分類学的な検討をさらに進めていく予定である。また,生葉上地衣類における共生菌と共生藻の関係を広く調査するなかで,Jaagichlorellaが主要な共生藻であることを示し,Phyllosiphonを地衣類の共生藻として初めて確認した。 さらに,本研究は分類学的な研究にとどまらず生態学的な研究にも発展している。生葉上地衣類では,共生菌の共生藻に対する特殊化の度合いが各種で異なり,高い特殊化を示すものもいれば,複数の共生菌が同じ藻系統を共有する特殊化の低いものもおり,大きく2タイプにわけられることが明らかとなった。生葉上地衣類は複雑な共生菌と共生藻の相互作用によって種多様性が維持されていることが示されてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では,昨年度に引き続き栃木県から沖縄県までの広い範囲で採集調査を行い,分類学的再検討に用いるための標本数を大幅に増やすことができた。また,調査に加え,ヨーロッパの4ヶ国にある計6つの地衣類標本庫を訪問し,約100点のタイプ標本を検討した。その結果,日本産地衣類として32属103種を同定した。そのうち,Racoleus japonicusとByssoloma orientaleの2種を新種として記載し,これに関する投稿論文が国際誌に掲載された。さらに,これまで同種とされていたグループが,共生菌の分子系統解析により複数のグループに分かれた。これらのグループは,それぞれが選択する共生藻の系統に傾向が見られることも明らかにした。生葉上地衣類における共生藻に着目した分類学的再検討も順調に進んでいる。 また本研究は分類学的な研究にとどまらず,生態学的な研究にも発展している。生葉上地衣類では,共生菌の共生藻に対する特殊化の度合いが種ごとに異なり,高い特殊化を示すものもあれば,複数の共生菌が同じ藻系統を共有する低い特殊化を示すものもあり,大きく2タイプに分かれることが明らかとなった。このように,生葉上地衣類は複雑な共生菌と共生藻の相互作用によって種多様性が維持されていることが示されてきた。これらの進捗状況より,当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では国内だけでなく国外での採集調査を予定しており,より地理的に広い範囲から採集された標本に基づき分類学的な再検討を行う。具体的な採集地としては、台湾や小笠原諸島など亜熱帯地域での調査を予定している。また,これまでの本課題研究で明らかになった生葉上地衣類および関連の地衣類の分類学的な諸問題を解決し,速やかに論文として投稿する予定である。また,当初の計画以上に得られた生葉上地衣類の生態学的な知見に関しても,論文としてまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外調査が調査先の政治的な不安定な状況のためにキャンセルとなり,その結果,当該年度の実支出額が予定より少なくなった。しかし,次年度には欧州で開催される国際学会への参加を予定しており,円安の影響もあって当初の予定よりも多くの研究費が必要となる。この次年度使用額は,その補填に充てる予定である。
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