研究課題/領域番号 |
22J21168
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
尾形 絵梨花 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | ブラックホール / 超大質量ブラックホール形成 / 降着円盤 / 輻射流体シミュレーション / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究目的は、超大質量ブラックホール(BH)の形成過程の解明に貢献するために、中質量BHの成長率を定量的に明らかにすることである。この目的を達成するために、シミュレーションを駆使し、Bondi-Hoyle-Lyttleton半径(~数pc)内部のガスの運動をその数億分の1のスケールのBH降着円盤の構造と自己矛盾なく解く。 本年度は、BH降着円盤が生み出す非等方的な輻射場を仮定したBondi-Hoyle-Lyttleton降着スケールのガスの運動を解き、Bondi-Hoyle-Lyttletonスケールから降着円盤へのガス供給率を調査した。調査する上で、シミュレーションコードSFUMATO-M1(Matsumoto 2007, Fukushima&Yakima 2020)を改良する必要があった。具体的には、降着円盤が生成する非等方的な輻射場の形状や冪型の輻射スペクトルを実装した。さらに、降着円盤の強力な放射が星間ダストを昇華する効果も組み込んだ。 星間ガスの密度(1e4-1e6/cm^3)とBHとガスの相対速度(20-100km/s)をパラメーターとしたシミュレーションを実施した結果、Bondi-Hoyle-Lyttletonスケールから降着円盤へのガス供給率は、およそ7e-6-4e-4Msun/yrであることが分かった。この結果は、初期宇宙の銀河円盤中(比較的高密度>~1e4/cm^3、低いダスト含有量<^0.1Zsun)を浮遊する中質量BHは、質量と速度をほぼ増加させることなく銀河円盤中を浮遊し続け、一方で、超高密度な銀河円盤中(>~1e6/cm^3)を浮遊する中質量BHは、質量が1e7Msunまで増加し銀河円盤を飛び出す可能性があることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BH降着円盤からの非等方輻射を仮定したBondi-Hoyle-Lyttletonスケールの3次元輻射流体シミュレーションに成功した。これにより、ガスの密度およびBHとガスの相対速度を変えた場合の、降着円盤がBondi-Hoyle-Lyttletonスケールのガスの運動に与える影響を明らかにすることができた。これらの成果は、既に多数の国内学会や国際研究会に積極的に参加することで世界に発信してきた。また、再来年度に予定している、Bondi-Hoyle-Lyttleton降着によるガス供給を仮定したBH降着円盤の構造を解くシミュレーションに向けて、降着円盤近傍の降着現象をテーマとした研究会にも参加し、将来の研究への準備も整えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度改良したシミュレーションコードSFUMATO-M1を用いて、まずは(1)幅広い物理量のパラメーター(BHとガスの相対速度・星間ガスの密度と温度・BH質量・ダストの含有量・輻射スペクトルの形状など)のもとでBondi-Hoyle-Lyttletonスケールのガスの運動を調査する。その後、(2)Bondi-Hoyle-Lyttleton降着機構によってBH近傍に落下したガスが作り出す降着円盤の構造を調査する。(1)と(2)について、互いの結果が無矛盾になるまでシミュレーションを交互に繰り返す。これによって、漂う中質量BHの質量や速度、星間ガスの密度、温度、ダストの含有量など、中質量BHが超大質量BHに成長するための条件を明らかにすることができる。なお、大規模計算に必要な計算資源は、スーパーコンピューターWisteria(東京大学)やATERUI II(国立天文台)を使用する予定である。
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